
木村紅美の10年ほど前の小説である。2012年12月出版。図書館の棚から見つけてきた。最近はあまり本棚を見ない。新刊しか読まないからだ。本棚から探して読むとすぐに以前読んだ本を借りてきてしまう。しかも初めて読む気分で、である。以前読んだことを忘れているからだ。しばらく読んで、これはもう読んでいると気がついた時のショック。悲しくて悲しくて。自分が認知症への道をまっしぐらに突き進んでいる気になる。
新刊なら大丈夫だから、安心して読める。まぁ同じ本を何度も読んだって構わないけど、心構えの問題なのだ。
ということで、この本だった。大丈夫、初めて読む本だった。ただ、あまり感心しない。とても好きなタイプの作品なのに乗れなかった。主人公の女性の行動がわからない。彼女の抱える孤独を受け止めきれない戸惑いの中、気がつくとラストまで来ていた。
30過ぎの女性。東京を離れて、名前も仕事も捨てて、知らない町で人知れずひっそりと暮らす。消えてしまいたい。北陸の小さな町。雪に閉ざされた何もない田舎町に流れてくる。そこで、寂れたラブホの受付の仕事をしながら、冬を過ごす。長く住みつくつもりはない。しばらく暮らし、また消えていく。
ここでの冬時間が描かれる。彼女に何があったのか、明確には語られない。男と別れて来た。彼はやがて死ぬ。それは彼女のせいなのか、そうじゃないのか。それさえ曖昧だ。ただ、彼女はもう生きる気力はない。流れた先での暮らしにもドラマチックな展開はない。ホテルの主人から絵のモデルを依頼される。ヌードモデルだ。引き受けた。彼から一緒に逃げないか、と打診される。彼の妻は病いに倒れ入院した。
そんなふたりの恋愛を描くのではない。彼女はまた男から去っていくばかりだ。それからもまた、さすらうように転々として暮らす様が描かれる。消えてしまうことは死なない限りできない。