習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

八槻綾介『ややの一本 剣道まっしぐら!』

2023-06-30 08:25:00 | その他

YA小説と図書館では分類されているけど、これはほとんど児童文学のノリだ。こんなアホな中学生はマンガの世界か、児童書にしかでてこないだろう。大人の小説ではこのノリは絶対ない。バカバカしい。付き合いきれない。なのに、それがなぜか嫌ではない。それどころか、なんだか気持ちいいくらいだ。作者はこれを無意識にするのではなく確信犯。わざとこういうキャラクターをでっちあげた。そして、それが過剰にならず、ちゃんと寸止めが出来ている。上手い。

キャラだけでなくお話もとんでもない。あんな中学剣道部ってあり得ない。お話はかなりいい加減だけど、このノリを貫いていくみたいで、仕方ないなぁと思って付き合うことにした。定番の展開を悪びれることなく、堂々と描く。その中できちんと大切な想いや気持ちを伝える。突っ走っていくややの暴走をみんなはしっかりとフォローしていくのが素敵だ。そして彼女は熱いだけでなく、中学1年生なのに人間ができている。

地域の剣道教室や道場、中学のクラブ活動を適度にデフォルメしながらも、核心はリアルに描かれるから、腹は立たないし、納得できる。

「第11回ポプラズッコケ文学新人賞 大賞受賞作!」とある。なるほど、と思う。それにしてもズッコケ文学新人賞っていうネーミング。さすがポプラ社だ。ズッコケさせられるのが、心地よいし、楽しい。

6人の女の子たちの置かれたさまざまな状況がリアルだ。上手く描かれていて、そんな状況への対応も的確。ふたりの指導者の描き分けもあからさまなパターンだが、納得できる。すべてにおいて確信犯。やられたな、と思う。

 
 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 乾ルカ『花ざかりを待たず』 | トップ | 『アイの歌声を聴かせて』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。