前半はなかなかいいのだけど、最後の第5話がつまらない。お話をどこに落とし込むかが腕の見せ所になるのだろうけど、どうしてこんなふうに説明だけの収め方をしたのだろうか。これではなんだか興醒めだ。
この不思議な館で、過ごす時間は心地よい。下宿人は変な人たちだらけ、というよくあるパターン。これはある種のファンタジーなのだけど、これがこんなにも気持ちよく読めるのは、作者がまず嘘と割り切ってこの虚構世界を楽しんでいるからだ。しかも、それなりにちゃんと背景も描き込んでいるから、気持ちよく騙されることができる。ひとりぼっちだった女性がここに来ることで、居場所を見つけ、恋もして、自分の未来を切り開いていく、というこれまた定番の展開を心地よく受け止められる。
開かずの扉に秘められたそれぞれの想い。そこに土足で踏み入ることなく、ちゃんと尊重して、過ごす。扉は開かないでいいし、開くべきではない。(でも、開かなくては話は進まないのだけど。)5つのお話自体はどうでもいい。この不思議な洋館の迷路のような(というか、もうこれは迷路!)空間が楽しい。ありえないけど、あり得たならぜひここで時間を過ごしたい、と思わせる。ここの住人とここを訪れる人たち。開かずの扉にまつわるお話は、この先、続編を十分に作れる設定だ。それだけに今回の金木犀の謎を解き明かすラストがつまらなかったのが残念でならない。