5月の26日から上演されるくじら企画の新作『黄昏ワルツ』に先駆けて、「シン・クジラ計画」として配信のみで公開上演されているリーディング作品だ。とてもよくできている。
配信で芝居を観るのは嫌なので、ほとんど見ないけど、最初から配信のみで企画された作品だ。劇場のライブ感を大切にした仕様になっているのがうれしい。役者たちの緊張感が確かに伝わる。このキャストによる公演も生で見てみたいと思わせる。初演時のオリジナルキャストで再演される本編とはまた違った味わいの作品になっている(ことだろう)。
本作は25年前に上演された「くじら企画」の第1作である。犬の事ム所を解散した大竹野正典が初心に戻って最小限のキャストで作り上げた作品だ。今回の再演はそのオリジナルキャストが再結集して演じる。当時はまだ30代だった彼らも、もう60代になってしまった。芝居は30代の3人が主人公なのだが、それを60代の3人が演じるとどうなるのか、楽しみだが、まずは新しいキャストで作り上げられた本作の話から。
この作品の作者(もちろん大竹野正典)の分身であるスナメリを演じた大竹野春生が素晴らしい。(もちろん、春生は大竹野の息子だ)彼を視点として3人が演じる狂騒曲は無茶苦茶だけど、切実だ。だがそこには悲壮感はない。どこまでもノーテンキで笑える。でも、笑いながら泣けてくる。ダンボールハウスで暮らす浮浪者でしかない彼らは、まともに働くことなく、工事現場の作業場から弁当箱を盗んでくることに腐心する。バカバカしいけど、それはやはり切実だ。家を捨てて、家族を捨てた(捨てられた)男たち。バカな3人はやがて、スナメリの家を燃やすことになる。(「お家」を放火する、と大竹野は書く)そして、現実と幻想のあわいで彷徨う彼らの行為の顛末は、臭い体を洗うための乾布摩擦に至る。犯罪に向けて邁進するが、犯罪者には至らないチンケな浮浪者たち。
一応はリーディングというスタイルを取りながらも、ただの朗読劇にはしない。抑えた演技で内奥にある悔恨、切なる想いが伝わってくる。オーバーアクトするオリジナルキャストの芝居(たぶん)とは違い、彼らはクールだ。客観的にこの作品世界を再構築する。共演した上田裕之、芝垣啓介だけでなく、ト書きを担当した森川万里も含めて、全体のアンサンブルも見事。本編の前に、この作品を見て、その差異を楽しめたらいい。