530ページに及ぶ大作である。先日の村上春樹には及ばないが、同じくらいに大部な小説だ。だが、それを同じように3日で読んだ。(まぁもちろん、たまたま)さすがにこのボリュームである。一気読みは無理だ。途中で気分転換も必要で間にほかの本を1冊挟んで読破した。
43歳、涼子が主人公。大手の広告代理店で働くバリバリのキャリアウーマン(て、言うのか。今の時代)。3つ年下の美容師の夫、孝之と結婚して13年になる。お話はこのふたり交互に視点を変えて展開していくけど、ふたりは等価ではない。メインとなるには彼女のほうだ。お話が動きだすのは孝之の浮気から。
孝之がネイリストの美登利と関係を持つシーン(なんと260ページ過ぎてから)まではかなり面白く読めたが、そこからはなんだか安物のポルノみたいで、少し興醒めした。さらには事故に遭うことからの修羅場になり、ますますガッカリ。修羅場といいつつも、彼女は彼に何も言わないけど。
前半部分の緊張感が持続しないのだ。40代の夫婦の倦怠感。お互いに飽きたのではなく、長年夫婦をしてるのに、いや、してるから上手く付き合っていけなくなってしまう。郊外に家を買って、夫は夢を叶えて美容室を開業した。妻は広告代理店でバリバリ働いて忙しい日々を過ごしている。嫌いになったわけではないが心がすれ違う日々。セックスレスになったのは慣れ親しんだからではない。なぜか互いへの遠慮から距離感が生まれ、そうなった。自信がない。お互いに。相手を思いやる優しさはある。だけど、それは愛ではない。13年一緒に過ごしているのに、遠慮がある。いつからだかわからない。気がついたらそうなっていた。高給取りで、彼女の援助からようやく望み通りの店を持てた。彼女のおかげで夢を実現できた。だから彼には負い目がある。卑屈になっているのか。彼女に冷たさを感じるのは思い過ごしでしかないのか。店の経営はなかなか上手くはいかない。こんなはずじゃなかったのに。だから余計に萎縮して卑屈になる。
責任の重い仕事を抱えオーバーワークで余裕がない忙しい日々を過ごす妻。都心から離れた自宅までの通勤だけでも負担は大きくストレスの溜まる毎日。クタクタになって帰ると、ノーテンキそうな夫がいる。イライラは募る。いつ爆発的してもおかしくない毎日。この夫婦のスケッチがどこまで持続するのか、かなりドキドキさせられる。彼だけではなくお互いに萎縮している。綱渡りの日々。だから新しいアシスタントとして若くて綺麗な美登利が入ってきたところからやがてとんでもない事態が起きるのは必然なのだが、それではあんまりではないか。あまりに安易な展開になっていささかガッカリする。
何が起きても不思議じゃないけど、何も起きない緊張の持続。それがどこまでも続くことを期待した。だからありきたりの展開にはガッカリした。だが、ラストの収め方は上手い。離婚というは当然だと思うが、夫の浮気に愛想を尽かすのではなく、これまでの自分たちをしっかり見つめ直しての判断が清々しい。離婚まで530ページだ。離婚は大変だと思う。よく頑張りました。
自分らしく生きること。40歳過ぎて、改めて気づく。というか、いくつのなろうとも気づかない人は気づかない。終章の急展開と、それまでのじっくりと見せていく展開の遅さ。でも、その展開の遅さが作品の力になる。いろんなことはそう簡単ではないからだ。