習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『バンデイジ』

2010-02-22 21:58:02 | 映画
 90年代のバンドブームを背景にして、ミュージシャンの男と彼のバンドのファンの女の子の2人のドラマを描く。だが、単純なラブストーリーではない。バブル以降の不安な時代を舞台に、音楽という不安定なものに寄り添う男女を通して、自分たちの弱さやいじましさと真摯に向き合う青春ドラマのようだ。

 95年にMr. Children のライブを中心にした音楽映画【es】を監督したミュージシャンでありプロデュサーでもある小林武史が初めての劇映画に挑む。製作、脚本を岩井俊二が担当した。いろんな意味でこれは岩井色の強い映画だ。だが、小林と岩井はきっと感性が似ているのだろう。違和感はない。(昨年の脚本家北川悦吏子と岩井のコラボとなった『ハルフウエイ』はダメだったが)

 これはまず、時代の雰囲気をよく捉えた映画になっている。といっても風俗映画ではない。『3丁目の夕日』のような当時の風景を再現した、とかそんなのでもない。だいたい90年代なんて言われても、つい最近のことでなんだかピンとこない。だが、なんとなくあの時代の危うい雰囲気がこの作品の根底にはある。

 主人公の所属するバンドはブレイクしてヒットチャート1位にランクインする。だが、その後、消えていく。これは特定のミュージシャンをモデルにしたものではない。なんとなくこんなバンドがたくさんあった。浮き沈みが激しい音楽業界で、一世を風靡してもすぐ消えるグループなんか数知れない。

 特別な才能もない。だがなんとなく人気が出てきてメジャーデビューする。だが、自分がずっと音楽で生きて行く、と言うだけの自信はない。だが、ことさら不安を語るわけではない。映画はそんな主人公のナツ(赤西仁)と出会った高校生の少女アサコ(北乃きい)が、彼に振り回されながらも、いつの間にか彼らのバンド〈ランズ〉のマネージャー助手(マネージャーは伊藤歩)となり、ともに生活していく短い時間が描かれる。

 ドラマとしてはメリハリがない。まぁわざとそんな作り方をしている。ドキュメンタリーのようなライブ感を大事にしている。手持ちカメラも多用している。彼らが過ごす時間の緊張感を大切にしている。映画はここにある空気を捉えることを一番大切にする。

 とても狭い世界での物語となっている。ひとりのミュージシャンと女子高生が出会って、お互いを意識しながらもしっかり距離をとって同じ時間を過ごしていく。決して長い時間を描くわけではない。メーンとなるのは、彼女の高3の頃から卒業後1年間くらいの話だと思う。

 その後、彼らのバンド、ランズはヒットチャート1位になるが、続かず1発屋で消えていく。そのへんの顛末はあまり詳しくは描かれない。あぁダメだなぁ、というところで終わる。7ヶ月後、そして2年後、更には、今の彼女が、今の彼と再会を果たすラストシーンまで。このエピローグは淡々と段階的に描かれていく。決して一瞬で過ぎていった季節を描くとかいうよくある青春ドラマではない。

 この映画が描く当時(まぁ、今もだが)、音楽業界の最前線にいた小林武史が描くわけだからここにはきっと嘘はないだろう。というよりも、この題材は音楽業界を描くことがメーンではなく、90年代前半という時代の気分のほうが、大切なことなのだろう。それから、よくあるミュージシャンの栄光と挫折なんかでもない。不安な時代を生きる気分こそがこの映画の目指すところだと思う。それはそれでとてもよくできている。これは単なるアイドル映画なんかから遙か遠く離れたところにある。ただし、出来ることならこのさらに先を描いて欲しかった。今、この映画を作る意義が見えない。単なるノスタルジアなんかではないわけだから、『その先』は絶対必要だと思う。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 小川糸『ファミリーツリー』 | トップ | 『パレード』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。