たった62分の映画だ。昨年劇場公開されていた作品。話題になったきくちゆうきの4コマ漫画「100日後に死ぬワニ」を『カメラを止めるな!』の上田慎一郎監督とアニメーション監督ふくだみゆきが共同で監督・脚本したアニメ映画だ。豪華声優陣は、実写映画なら凄いキャスティング。でも、この地味な映画の中で彼らは控えめに演じる。
とてもいい映画だ。ほとんど動かない絵もいい。ほとんどしゃべらない主人公たち。描かれる100日間はドラマチックとは程遠い。ワニ(神木隆之介)の死から始まり100日前に遡る。30分ほどで描かれる100日間が前半。友人のネズミ(中村倫也)や恋人(新木優子)と過ごした時間が淡々と描かれていく。それはただの日常のスケッチ。こんなにも何もない話を見せるだけという展開が凄い。だが、その先に死が待っていることを僕たちは知っているから、そんな日々なのにそれが愛おしい。後半は彼が死んだ後。空虚を抱える友人たちのところにカエル(山田裕貴)がやってくる。彼はなんだかうざったいし、めんどくさい。でも、悪い男ではない。だからみんなは対応に困る。やがてそんな彼を受け入れるまでのお話。
最初から最後まで起伏を一切なくしてフラットなままで見せる。感想や意見も言わない。見たままでいい、という姿勢だ。潔い。『カメラを止めるな!』以降上田慎一郎監督は鳴かず飛ばずだが、空前の不入りで非難ごうごうとなったこの作品は、実はとてもいい映画だった。62分という慎ましさも作り手の確かな想いを感じさせる。