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映画・演劇のレビュー

桂望実『我慢ならない女』

2014-06-09 21:33:35 | その他
 小説家になるために身を削るようにして生きてきた女が、新人賞に引っ掛かり、なんとか、デビューする。だが、そこが到達点では当然ない。スタートですらないほどだ。作家としての免許のようなものを手にしても、仕事はない。必死に書いた小説は歯牙にもかけられない。編集者は忙しいから、読みもしない。でも、石にかじりついても書くしかない。

 なんとも壮絶な生きざまが描かれる。しかも、彼女はベストセラー作家にもなる。だが、それでも、彼女の生活は変わらない。書くのは苦しい。産みの苦しみをあの手この手で描いていく。地獄だ。書くこと。飽きられないこと。自分らしさ。読者のニーズ。才能の枯渇。あらゆる要素が彼女を取り囲む。落ち着くことはない。

 そんな彼女の人生を彼女の世話をする姪の視点から描く。もともと彼女もまた作家志望だったのだが、この叔母のすさまじい生きざまに触れて、あきらめて叔母の援助をしたいと思う。それはおせっかいでしかないのだが、叔母の才能に惚れ込み、なのにまるで理解されない彼女の唯一の理解者になる。やがて、彼女を売り込むことに成功する。

 よくあるサクセス・ストーリーではないことは、ここまで読めばわかるだろう。いつまでたっても苦しみからは逃れられないのだ。たとえ成功しても、である。なんか悲惨。でも、それもまた、人生か、と変に納得させられる。それどころか、清々しいほどだ。なんとも不思議な小説である。

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