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映画・演劇のレビュー

小川内初枝『長い予感』

2008-06-12 23:42:33 | その他
 どうしてこんなにも悲しい気持ちを描こうとするのだろうか。ひとりぼっちで生きていくことに痛みをこの小説はとても静かに描いていく。物語としてではなく、情景として切り取っていく。

 27歳から40歳までのいくつかの時間。6つの短編。姉と妹。それぞれの風景。最後にはふたりがいる風景まで。

 27歳、30歳、37歳。この10年間を通して、紗絵はひとりを生きていく。キャンプ場での孤独。男が部屋に連日のように泊まりに来ることの憂鬱。ひとりになった彼女がキャンプ場で出逢った少年と再会する。11歳だった男の子への恋心。それを封印して、そんなこと忘れて生きてきた彼女の前にあの日の少年が21歳の大人の男の子となって姿を現す。こんなこと、現実の世界では起きるわけがない。だから、それが起こってしまったことに、彼女自身は気付かない。

 34歳の姉が12年前に別れた男と再会する。今では映画館の窓口に座り人生の余生を生きている彼女のもとに、偶然彼が現れる。彼女と、彼の側から同じ話が描かれる2編の短編を挟んで、2人の今が描かれる最終話『花を摘む』まで。一気に読んでしまった。2歳の息子を抱えた紗絵が姉のもとに遊びに行く。そこに死んでしまった姉のかっての恋人の娘が訪ねてくる。

 話はあまりにうまく作られすぎているが、これは心象風景なのだと納得すると、この夢のような話は実に心地よい。でも、寂しいことには変わりはないが。

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