こんなヘンテコな映画がひっそりと公開されていたのか、と思うとおもわず笑ってしまう。「傑作だ!」と大声で絶賛して、人に勧める気はない。それどころか、教えてあげない。自分だけで大事に取っておく。
スタンダードサイズのスクリーンからして、ヘンだ。今時そんなサイズの映画はあまりない。ないわけではないけど、少ない。そのサイズがなんらかの意思表示にはならない。この映画の場合、たまたまこのサイズにしました、というくらいのさりげなさ。時代から取り遺されていく団地が舞台だ。0階から10階まである。(フランスは1階が0階と表示される)落書きだらけの古いマンション。エレベーターが壊れて、でも、管理会社は直そうとはしない。もうすぐ立て替えするからだ。仕方なく住人たちがお金を出し合い、新しいエレベーターを設置する。でも、2階に住む男は反対する。だって、自分は今までエレベーターなんか使ってないし、これからも使わないから、と。このヘンコツな中年男と、ここで暮らすひとりの青年、さらにはここの屋上に不時着(!)した宇宙飛行士、この3人の話が交互で描かれる。
3つの話が交差することはない。別々に描かれ、別々のまま終わる。同じ場所の別々のドラマはいずれも男女のお話だ。でも、これは恋愛ものではない。
カウリスマキの映画を見ているようだ。ほとんどしゃべらない。セリフも少ない。古いサイレント映画でも、見ている気分。2階に住む男が足を悪くして車椅子になる。(その理由がまた、笑える)エレベーターを使うしか方法がない。だが、彼は住人に頭を下げて使わせて貰うことをよしとしない。隠れて使う。このイヤな男が深夜の病院で、夜勤の看護師と知り合いになる。青年は新しく引っ越してきた女性に興味を抱く。母親くらいの年齢の女で、女優をしている。宇宙飛行士はNASAが迎えに来るまで、初老の女性の部屋で待たせて貰うことになる。
どの話もなんだか、普通じゃない。すっとぼけた感じ。なんか抜けている。(マが)しかも、メリハリがない。一応ストーリーにはなっているけど、大事なことはそこではない。コミュニケーション不在。でも、伝わり合う気持ち。伝わりきらない想い。これはいろんな意味でなんとも説明不可能な(だから、おもしろい)とても不思議な肌触りの映画なのだ。