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映画・演劇のレビュー

『ダークホース』

2015-09-27 22:23:01 | 映画
アジアフォーカス福岡国際映画祭を見に行くのは初めてだ。わざわざ遠くまで映画を見に行くのは得意ではない。というより、仕事が休めないからムリだし、休みの日も必ずクラブがある。忙しいから不可能だ、と言って今まで敬遠してきた。今回たまたま5連休で、しかも、3日間はもう一人の顧問の先生がクラブの面倒を引き受けてくれたため、可能になった。(というか、可能にした)

そこまでして映画を見るのか、という気もしたけど、せっかくの機会なので、初めてにチャレンジすることにした。おかげでこの週末の芝居は全滅になった。何かを得るためには何かを失う。当然の報いだろう。しかも、ホテルが取れず、大変だった。でも、それだけしても、行く価値はある。今回の映画祭、僕の最初の1本となったこの映画を見たとき、そう思った。これは凄い映画だ。

こういう映画は普通見ることはない。パッケージングからは想像もできないような作品なのだ。チェスの名人が子供たちを指導して大会で優勝するという感動ストーリー、ではない。でも、紹介はそういうふうにしか、できまい。だから、敬遠して見逃す。だいたい、劇場でこういう地味な映画は公開されない。よくある芸術映画ではない。アート映画は、マニア向けのミニシアターで公開される。だが、こういう娯楽映画の感動ものはムリ。

この映画の圧倒的な暗さが、普通じゃない。だが、この破滅的な状況の中、彼が子供たちと過ごす時間は、生きていく上で、何が必要かを教えてくれる。彼の置かれた状況にはもう未来も可能性もない。冒頭の雨のシーンが圧巻だ。施設に戻される。車に押し込められる。そこまでの、ほんの短いシーンで、この映画の方向性は決まった。お決まりのストーリーを踏襲するように見せかけて、実は今まで見たことのないような展開を提示していく。ドキドキは止まらない。

この映画の後、4本見た映画がみんな貧困をテーマにしていた。その中でどう闘うのかが真摯に描かれる映画ばかりだ。もしかしたら、この映画祭の映画は全部そういうものばかりなのか、と思うくらいの勢いだった。(5本目でようやく、そうじゃない映画が登場したので、ホッとした。)まぁ、僕の選択の問題だったのだが、それにしても、最初は驚いた。だいたい、このニュージーランド映画が、こんなストーリーなのに、ここまでハードな内容だとは思いもしなかった。実話をベースにした感動ストーリー程度のものを想定した僕を叩きのめす映画だなんて、思いもしない。しかも、やはり、ちゃんと感動させるし。

お決まりのストーリーであろうとも、それをちゃんと作るとそこには今まで見たこともないようなものを提示できるのだ。僕の想像力を遥かに上回るイメージを提示する。世界は広いな、と改めて思う。



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