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映画・演劇のレビュー

『レッド・ロケット』

2023-05-10 09:27:00 | 映画

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』のショーン・ベイカー監督の新作だ。アメリカのインディペンデントで成功を収めてメジャーデビューを果たした彼の第3作は2時間越えの渾身の一作。2021年・第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にも出品されたらしい。こんな内容だけど、気合いの込められた大作である。

落ちぶれたポルノ男優がハリウッドに見切りをつけて(追い出されて)故郷のテキサスに戻ってくるところから話は始まる。17年間出ていったままだった妻のもとに行く。もちろん、相手にされるわけもない。でも、なんとかつけこんでしばらく泊めてもらえるようになる。惨めな都落ち男の顛末が描かれていく。16ミリで撮影された画像は荒々しくて、ささくれた彼の心情を象徴する。背景となる景色も同じ。舞台となるテキサスの工場地帯の風景は殺伐としている。しょぼい町で、何もないそこを自転車に乗り(車もないから)フラフラする日々が描かれる。

仕事はない。だいたい、こんな男を雇うはずもない。仕方なく昔のつてで麻薬の販売に手を染める。それがなかなか上手くいき生活は潤う。そんな時、ドーナツショップの高校生と知り合いになる。彼女に付きまとい付き合う。(こんな胡散臭いオヤジと付き合う彼女もたいがいだが)なんだが調子はいい。

映画はこんな感じのお話がダラダラと描かれていく。夢も希望もないのに、なぜか調子ばかりはよく、もう一度ハリウッドでの再起を本気で夢見ている、ようなのだ。ただのバカである。だから、バカなりの結末を迎える。しかも、自分のバカを相変わらず他人のせいにして(優しくしてくれた友人に罪をかぶせる)逃げる。ラストシーンは一緒にハリウッドに戻るためドーナツ店の少女を迎えに行くところでエンドなのだが、それはこんな感じ。ドアを開けて玄関先に立つ彼女のセクシーな水着姿を見るという鮮やかすぎる(アホすぎる)衝撃の幻想シーンである。あの展開には驚く。このアホ男の頭の中は、こんなふうにどこまでいってもまだお花畑なのだ。

誰が見ても悲惨な日々を、あくまでもバカバカしくノーテンキに乗り切ろうとする。そんな男のお話。


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