これは待望の林海象監督の新作だ。2年前にひっそりと公開されていた映画。Amazonプライムのおかげでようやく見ることができてうれしい。永瀬正敏が主演する。林海象と彼のコンビ復活! もちろん佐野史郎も出ている。3話からなるオムニバスだが、話は完全に繋がっているし、同じ主人公によるドラマだから、1本の長編映画だと思う。全体は81分と短め。
ある地震による大津波によって原発が爆発事故を起こして、汚染水が流れ出るのを防ぐために建屋に入ってボルトを閉める作業をする作業員。被災地の帰宅困難地区に戻って暮らしていた独居老人の死後、家の片付け作業をする業者。自動車整備工場でひとり暮らしている男のもとに死んだ妻(そっくりの女)がやってくるが、パンクしたタイヤ交換をしただけで去っていく。この3つのお話の男は同じ男でもちろん永瀬正敏が演じている。
短編連作のさりげなさ。そこで提示されるのは3つの光景。それが描かれるだけ。お話らしいお話はない。リアリズムではなく象徴的なドラマ。そこに起きた一瞬の出来事を見せた。ツッコミどころは満載だし、映画としては今いちなのだが、林海象の映画が見られて、それだけでよかった。相変わらずスタイリッシュで素敵だ。原発内部は現代美術家ヤノベケンジが香川県高松市美術館内に制作した近未来的なデザインの巨大セットを使用したらしい。贅沢なSF映画を見ているようで、それがこの小さな映画になかにきちんと収まる。
明らかに「3.11」を描く3つの場所の出来事は現実の出来事なのに幻想的で、見せたいのはお話ではなく、主人公の内面で、映画はそれを描いたものだ。永瀬は何も語らないけど、その心にある想いを見事に伝える。