よくあるアメリカ映画によるリメイク版。原作はスウェーデン映画『幸せなひとりぼっち』。昨年の『コーダ 愛のうた』もリメイクだった。あれがアカデミー賞ならこれだってアカデミー賞主演男優賞、作品賞を取ったっていいじゃないか、と思うくらいにアメリカ映画らしい映画で、オリジナルより完成度も高い。監督は『プーと大人になった僕』のマーク・フォースター。映画は確かにいささか甘い目だが、納得のいく傑作だ。もちろんトム・ハンクスが素晴らしい。頑なに頑固な老人を見事に演じた。最愛の妻を失い生きる希望を無くした男。だから自殺して彼女のもとにいくつもりなのに何故かいろいろあって死ねない。様々な方法を駆使して自殺を試みるがうまく死ねない。それどころは駅のホームから落ちた人を助けてしてしまう始末だ。
そんな彼の姿をさらりと描いていく。もちろんそれをコメディにはしない。あくまでも映画はシリアスなタッチだ。隣家に越してきたメキシコ人一家(二人の子供たちがかわいいけど、彼女たちとの交流はさらりと描くからあざとくはない)との交流を通して彼が生きる希望を見い出していく、というお話の展開になる。まぁお話自体はある種パターンだが、安易な映画ではなく、優しい。
今では廃人になっている友人とのお話もいい。若い頃を演じている俳優がトムの若い頃より少し不細工なのもいい。不器用な男が最高の妻を得て、幸せに生きた日々を経て今に至る。だが彼女が死に、仕事も定年退職し生きがいをなくす。だから死ぬ。わかりやすいスタートで始まる映画はわかりやすい展開で、なのにこんなにも心に沁みる。
エピローグの「3年後」の描写もいい。そこではオットーが死ぬエピソードが描かれるのになんだか幸せな気分になれる。敢えて描かなかった3年の幸福がちゃんと想像できるように作られてあるからだ。実にうまい。