東出昌大が今回もまた素晴らしい。不倫後の最近の彼は目覚ましい。大作商業映画ではなくミニマムな映画で主役を張り、大活躍。特に『天中の花』の三好達治。押さえた芝居と感情を爆発させるシーンのバランスが絶品だった。そして今回は終始ぼんやりしている天才をなんと18キロの増量で演じており見事。しかも主役だけど弁護士役の三浦貴大の脇に周り飄々とwinnyを開発した男を演じている。
映画は2時間7分、単調な会話劇。弁護士事務所での作戦会議と裁判シーンが全編を覆う地味な映画だが、飽きさせない。ただあまりに一本調子ゆえさすがに終盤になるといささか退屈してくるけど、これも意図かもしれない。普通ならクライマックスは盛り上がるはずなのに、そこまでもが頑固に単調。まぁなかなか筋が通っている。
実話の映画化で、存命中の実在の人物が多数出てくるからあまり派手なエンタメ仕様にはできなかつたのだろう。まぁする気もないだろうし。松本優作監督は商業映画デビュー作である前作『ぜんぶ、ボクのせい』同様、派手な作りはしないで淡々と見せていく。天才が無邪気ゆえに埋もれていく悲劇を、サイドストーリーである警官(吉岡秀隆が演じる)の愛媛県警による領収書偽造汚職事件の摘発と並行して、しっかり見せていく。(ただこのふたつがうまく重ならないのが難点だ)そこから国家権力の無謀と愚かさを静かに告発する。