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映画・演劇のレビュー

『言の葉の庭』

2013-08-17 23:53:53 | 映画
 46分のアニメーション映画がそれだけで劇場公開される。しかも、全国東宝系一斉ロードショー公開である。未だかつてそんなことはなかった。これはそれだけで、快挙である。しかも、この英断を下して、興行的にも成功する。さらには、公開直後1カ月でDVD販売がなされるのだ。さらにはその約3週間後には、(同時ではない!)レンタル開始する。このすさまじいスピード。だが、これはセルのためのイベント上映ではない。(今までそういう特別劇場上映はあったけど、今回は規模が違う)れっきとしたロードショーなのだ。

 それくらいに新海誠ブランドは信用されているということなのだろう。『秒速5センチメートル』を見て、その才能に注目した。彼の描くスーパーリアリズムとスーパーセンチメンタリズムは、今まで誰もが成しえなかったものだ。独自のスタイルで、自分の世界を作り上げる。

 本当は劇場公開時に見るつもりだったが、さすがに、46分のために大枚(入場料は普通より安くて1200円)はたいてわざわざ劇場に行く勇気がなくて、ぐずぐずしているうちに、レンタルが始まることを知り、ついついひるんでレンタル待ちしてしまった。

 中編映画であることの意味をしっかり理解した作品である。長編では描けない世界を提示する。もちろん、短編のような瞬間を切り取るというものでもない。数ヶ月間、雨の日限定、新宿御苑を舞台にして見せる。15歳の少年と27歳の大人の女性。出会って恋をする。幼い夢を(靴職人になる!)大切に心に抱き、誠実に生きる少年が、心を病んだ弱い女性をやさしく包み込む。彼のほうが彼女よりもずっと大人だ。しかし、15歳と27歳では住む世界が違いすぎる。大人はずるくて汚い。純粋な少年の心を平気で傷つける。(わけではないけど、敢えてそう言うしかなかった)

 出会いと別れ。静かに描きとる。熱くはならない。いろんなことは描かない。説明は一切なしに、事実のみ、瞬間的にとらえて見せる。後は想像するしかない。でも、そうすることで世界は広がる。見事というしかない。至福の46分。ちゃんと劇場でも見るべきだった。後悔先に立たず。

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