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映画・演劇のレビュー

森見登美彦『聖なる怠け者の冒険』

2013-08-17 23:49:40 | その他
 またも祇園祭を舞台にして、またまた森見がやってくれた。これは待ちに待った彼の新作長編だ。新聞連載時から、楽しみにしていたのに、なかなか単行本にならないから、どうしたものか、と心配していたら、なんと全面改稿していたようだ。何が気に入らなかったのか、よくわからないけど、彼の誠実さゆえの処置だろう。謹んでお受けしよう。

 でも、こんないいかげんな小説を毎日新聞で(連載したのは朝日新聞だが)少しずつ読む気分っていかなるものか。想像を絶する。今回単行本化された本作を読みながら、どう改稿したのかは定かではないけど、相変わらずいいかげんで、場渡り的で、別に改稿する必要はなかったのではないか、と想像する。でも、作者には譲れないいろんなものがあるのだろう。

 『宵山万華鏡』と『有頂天家族』を合体させたようなお話なのだが、いつもながらの森見ワールド全開で、楽しい。ぽんぽこ仮面はだれでしょう、というお話を中心にして、主人公の怠け者が、何もしないという話が展開する。それだけ聞くと、まるでつまらなさそうだ。でも、そこが彼らしい。

 祇園祭の宵山は、魔の時間だ。そこにいざなわれた人たちの織りなす摩訶不思議な物語。京都という不思議な世界で、夢のような時間を過ごす。現実の京都も本当に不思議な場所だが、森見氏の手に掛かると、そこはますます怪しい世界になる。魑魅魍魎、妖怪変化が跋扈する異界が現出する。でも、それはおどろおどろしいものではない。普通の世界だ。ただそこが京都だから、普通じゃなくなる。京都は奥が深い。

 最初に登場人物紹介がある。なんと10ページにわたるイラスト入り。ひとり1ページずつ。でも、途中から人物だけではなくなる。なんだかいいかげん。

 主人公の小和田くんは途中で、ずっと寝てしまう。なかなか起きない。仕方ないから、彼なしで話は進む。いいのか、そんなことで。終盤の大冒険はなかなかのオチだが、怒濤の展開を見せるたった1日のお話(宵山の土曜日)は、そのクライマックスのスペクタクルも含めて、何もしないという自己主張のバカバカしさや、正義の味方ごっこのバカバカしさとか、神様の怠惰さとか、徹底している。『有頂天家族』がアニメ化されたけど、この小説も実にアニメに向いている。

 たわいもない話なのに、なんだかこの不思議な冒険の世界に魅了される。この冗談のような話は、どんな冒険よりもワクワクする。怠け者の探偵と、主人公の聖なる怠け者。勤勉なぽんぽこ仮面や、休日を有意義に過ごすことに使命を賭ける先輩とその恋人。彼らは対なる存在ではない。おなじ穴の貉だ。そして、そんな彼らの間に立ち、事件を解決する週末探偵助手の玉川さん。彼女の方向音痴が、小和田君を助ける。

 ボーイ・ミーツ・ガールなのに、ラブストーリーにはならない。 だって主人公は怠け者だから。でも、お嫁さんを貰ったらしたいことリストなんてのは作っているくせに。そんなこんなの全部を楽しめる。面白いからたった1日で読んでしまった。もったいないなぁ、と思いつつも、読み始めると止まらない。

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