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映画・演劇のレビュー

垣谷美雨『マンダラチャート』

2025-02-11 22:32:00 | その他
ピッタリの同世代である主人公が自分の生きた時代を振り返り、再体験するタイムトラベルもの。これにはハマるわぁ。令和5年から1973年に。63歳から50年前の中2に。65歳になった僕にすれば懐かしいばかりの時間が描かれていく。

価値観の違いが生むコメディ展開と齟齬に悩む日々のスケッチがリアルに体感できる。北園雅美63歳。クラスメイトのイケメン男子天ヶ瀬もまた同じ時代からここに来ている。

この時代から人生をもう一度やり直しをする。しかも63年の記憶を持ったままで、である。高校から大学、そして就職へと。それぞれの時代を再体験しながら別の人生を生きるのだが、なかなか上手くいかない。僕たちはこんなにも男女差別があからさまにあった時代を生きてきたのか、と改めて思う。昭和から平成へと時代は変わっても日本という国は変わらない。

最初は楽しかったけど、だんだん不快になった。これが1970年代から80年代という時代だったのだ。この国で女性が生きるってこんなにも困難が伴うものだったのか、と改めて思う。4大出の女性は就職できないってそんなバカな話があっていいのか、と驚くけど、それもまた事実だったのだろう。終盤に入って就職の話のあたりから、あまり楽しくなくなってきた。こんな理不尽がほんの少し前までの日本である。そして今もまだ蔓延る。最悪だ。

ここからはこの作品の内容とはまるで関係ない話になるが、たまたま今日、同じように過去に戻り人生をやり直す「タイムスリップもの」である『ファーストキス』を見た。映画を見る前後にこの小説を読んだのだが、同じ題材を扱っているのにそのあまりに違う展開には笑えた。40代の女性が15年前を生き直すこの映画と60代の女性が14歳からを生き直す小説。ほぼ同時にそんな2作品を並行して体験する機会なんて滅多にないだろう。

特にこの小説は僕が生きた1970年代から80年代という10代から20代を中心にしてある。(『ファーストキス』は2000年代。描かれるのは繰り返しの出会いの一日、さらにはそこからの15年後である。あれは基本ピンポイントだったがこちらは10年以上のスパンである。しかも50年)ふたつの映画と小説。セットにして一日を楽しむ。

この小説のラストは素晴らしい。63歳から人生を始める。まず5年から。さらにまず旅に出ることから始まる。

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