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映画・演劇のレビュー

『二重螺旋の恋人』

2019-05-17 21:00:56 | 映画

オゾンの新作だ。今回も彼らしい緊張感のある映画でドキドキしながら見守ることになる。腹痛を訴える女が精神科で治療を受ける。内科ではなく。心と体はつながっている。彼女の心の病はどこからきてどこへとたどりつくのか。どうすれば治せるのか。彼女が治療を受けた医師と恋仲になる。彼には双子の兄がいる。その存在を隠し続けたこと。彼と暮らしながら、兄とも付き合う。だが、本当は何なのか。実は彼にはそんな兄なんかいない。

彼女が双子だったのだ。でも、生まれる前に姉は死んでいる。自分が姉を食べて生まれてきたのだ。体の中に取り込んだ姉の残骸が残っている。腹痛はその痛みだった。母から望まれずに生まれてきたこと、それがずっと心の闇になってきて、今まで続いていた。

ラストのオチは少し安易で、そこまでのミステリをまとめきれていない。すべてを妄想にするのは簡単だが、そこまでにちりばめた謎を回収しきれていないままなので、納得がいかない。心の病には原因がある。でも、そこを突き詰めても治療にはならない。それをどうすれば克服できるのかを提示したい。この映画の示す罪の意識とそれを他者にすり替える行為は一時的に自分を安心させることにはなるが、根本的な解決にはならない。体から姉の残骸を取り出して解決というラストだとは思わないけど、ずっと姉が付きまとうというラストなら救われない。

すべてがとても精緻に組み立てられていて見事なのだが、これでは最初からすべて妄想です、といっているのと同じかもしれない。オゾンの仕掛けた心の迷宮に翻弄されながら、その罠にはまって、でも、もう一歩踏み越え切れない恨みが残る。螺旋階段とか、13階の部屋とか、隣室の女とか、植物人間状態の彼の昔の恋人とか、ずっと見ている猫とか、そのすべてがきれいに収まりすぎる。とても面白い映画だったけど、なんだか不満が残る。


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