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映画・演劇のレビュー

サキトサンズ『梨の礫の梨』

2012-06-08 22:52:29 | 演劇
 宮川サキとSun!! による2人芝居。作、演出は横山拓也。中崎町のムーブ・ファクトリーは初めてだったが、こういう小さな空間は好きだ。このスペースに合わせて、横山さんは簡素で、さりげない芝居を提供する。

 とても小さな話だ。酔っ払いの独り言のようなものだ。ひとりぼっちで、とても寂しい。だから、ひとりで酒を飲む。マスターを相手にして1人語りを繰り返す。宮川サキはいつもながら、上手いから、すぐにその世界に引き込まれる。1時間という上演時間もこの内容にぴったりだ。芝居は必要以上の説明はしない。かなりの部分が観客の想像に委ねられる。想像の翼を広げながら、2人の背景を見つめるといい。そういう作り方になっている。何から何まで説明過多の芝居にはうんざりだから、こういう説明しないのに、感じれるというのはうれしい。

 地下鉄でのおばさんの理不尽な行為への意味のない抵抗を話す摑みとなる最初のエピソードが、楽しい。そこに、さりげなく、Sun!!が寄り添う。彼女もまた、理不尽な電車でのエピソードを語る。導入部となるここまでで、完全にこの小さく閉じた世界に引き込まれることとなる。2人芝居の王道だ。そこから本題である2人の掛け合いが始まる。2人の関係性はなかなか見えないようになっている。だが、ある瞬間から、なんとなく見えてくる。(ここから、少しネタばれします! この公演は17日までロングランされているから、これから見る人で気になる人は、この先は読まないほうがよい)

 ちゃんと2人の関係性は明確になるのだが、そこが、かなりさりげないのがいい。観客はなんとなく感づくのだ。この2人は親子だったのか、と。5歳の時に、まだ若いまま(27歳だった!)死んでしまった母親が、今ではもう40代になった娘のもとを訪れる。姉と妹のような娘と母親という図式がなんだか微笑ましい。これが死者との対話ではなく、自分との対話であることは明確だろう。寂しい夜のひとりぼっちの時間の感傷が、さりげなく描かれる。あまずっぱくて、ほろにがい。ラストで夜の闇に中に消えていく宮川サキの後ろ姿が愛おしい。



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