監督はこれが長編2作目となる『ペンギン・ハイウェイ』の石田祐康監督作品。2022年9月16日から劇場公開と同時にNetflixでも配信された。だから、ついついTVで(劇場ではなく)見てしまう。そして、少し後悔することになる。これはぜひ劇場でこそ見るべき映画だ、と。暗いシーンが多くて、TVでは見づらいし、テンポが遅くて眠くなるところもある。でも劇場で見たなら緊張感がちゃんと持続できそうだ。こんな単純な話なのになんと2時間の長編である。話は単純で、同じことの繰り返しが多くてまどろっこしい。でも、映画が描こうとしたことはよくわかるし、主人公の少女の心情は理解できる。やはりこれは映画館で見るべき作品なのだ。『ガガーリン』にも通じる映画だ。
老朽化して取り壊される団地群。60年ほど前、最新の施設として建てられた。当時の若い世代にとってはそこは憧れの場所だった「団地」。でも今はもう見る影もない。それは60年代終わり大挙して日本中に作られた。でも、今では住む人たちも老人ばかり。建て替えを余儀なくされる。そこで暮らしていた少年と少女。大好きだったじいちゃんが亡くなり、団地も立ち退きを強いられた。今では近所に建った新しいマンションで暮らしている。団地はお化け団地と呼ばれ、囲いがされて取り壊しも始まっている。夏休み、そこに忍び込んだ6人の子供たちが不思議なことに巻き込まれる。彼らがいたはずの団地が気づけばなんと海の中にあるのだ。彼らは周囲に何もない大海原をその団地とともに漂流することになる。
お話は冒険活劇にはならないからワクワクドキドキはない。こんな理不尽なできごとに遭遇し、彼らはただただ右往左往しながら陸地を目指す旅を続けることになる。そんな日々が描かれていく。なぜこんなことになったのか、わからない。やがて幽霊のような少年(のっぽさん)が現れて彼がナビゲートする。海を漂流するのはこの団地だけではなく、ショッピングモールや遊園地も現れては消えていく。
この不思議なできごとの正体は何なのか。忘れられていく過去の世界(施設)の記憶。この世界は常に新しいものに目移りし、かってここにあったものはすぐに消し去られていく。やがてはそこにあった大切な思い出も消えていくのか。ナツメは死んでしまった安じいのことが忘れられない。小学6年生の夏。彼女はいつまでもこの団地に引きこもり前に進めない。そんな彼女をなんとかして救い出したいと思う幼なじみの航祐。このふたりを中心にして同級生の4人とのっぽさんの7人が廃墟となった団地を船にして旅に出る。映画はこの特異な設定を十分に生かしきれてないのが残念だが、美しい映像とそのスペクタクルには圧倒される。こんな映画があってもいい。