モノクロスタンダードの端正な映画。樋口一葉の短編3作を映画化したオムニバス作品。今井正監督がこの小品小説を丁寧に描いて見せた秀作。だけど、今の時代にこの映画は力を持たない。この映画を見たからといって、あまり何も感じない。昔これも(たぶんTVで)見た気がする。『純愛物語』のようなインパクトがないからそんなことすら忘れている。でも、見たことすら忘れていたのなら初めて(見るような気分で)見たことと同じだ。(もしかしたらやはり初めてなのかもしれない。まぁ、どうでもいいけど)
『十三夜』はほぼワンセットで、裕福な家に嫁いだけど婚家の姑や使用人からの虐めに耐えかねて実家に戻ってきた娘とその両親とのお話。会話だけで綴られる短編。最後の車引きになった昔好きだった男との再会を描く部分もさらりとしている。へんにドラマチックには描かないのがいい。
『大つごもり』は久我美子が素晴らしい。奉公先で2万円の借金を頼むが吝嗇な奥さんから断られる。仕方なく、盗むのだが。
『にごりえ』は淡島千景が主人公。杉村春子、山村聡、宮口精二が脇を支え演じる。これが3本で一番長い。先の2本は1日の中の話で、短い時間の話だったがこれだけはそうではない。3本で少しずつキャストは増えていき、上映時間も長くなる。だが、反対に少し大味になるのが残念だ。最後の心中はいきなりで驚く。杉村春子の宮口の妻がいい味を出している。
いずれの作品もその過酷な状況の中で必死になって生きる明治の女たちの姿が描かれる。だが悲しい話ばかりで見ていて気が滅入る。ここには救いがない。映画としての完成度は確かに高いのかもしれない。だが、見終えてあまり満足感はない。それにここに描かれるのは過去の出来事でしかない。それが今の時代にどれほどの力も持ちえないのだ。これでは古典映画の傑作を見たという事実(あるいはお勉強)に留まる。