新しい作家と出会うのはうれしい。しかも、それが思いもしないものを見せてくれると、もっとうれしい。「夢と救済のネットビジネス」を描くこの作品は、栄光と転落なんていうよくあるパターンを踏襲しながら、そこにとどまらないものを提示して、新鮮な驚きを与えてくれるのではないか、と期待させた。本の帯に書かれてあったこの作家の前作のタイトルが『狭小邸宅』というのも、なんだかそそられた。(残念ながら、その小説自体はまだ読んではいないけど)
なのに、なんなんだ、これは! 最後まで読んで、オチにもがっかりした。それで終わりですか? 何度も同じことばかりして、バカは死ななきゃ治らない、というようなお話だったんですか? もう、頭の中は「?」だらけだ。このストーリーから、何を感じなさいというんだろうか。僕にはまるでわからない。
親友の度重なる援助の手を振り切って、(時には、ちゃっかり助けられて)でも、また、また同じことを繰り返す。何度騙されても、また、同じ。もちろん、少しずつ成長はしているようだけど、そんなところで成長してどうするのだ? いや、それこそが、作者のこの作品で掲げた意図か? ネット・ビジネスは確かにうまくやれば儲けは多きいはず。ネズミ講も、やり方次第では、成功する。欲にまみれた人たちの心に付け入るのは、上手くやれば簡単かもしれない。新興宗教を描いた山本政志監督の『水の声を聞く』なんて映画もあった。この題材は悪くはないはずなのだ。だが、せっかくの素材をこの小説は惜しいところで台無しにしている。なぜ、最後まで読んだのかというと、可能性を感じたからだ。もしかしたら、最後で凄いものに化けるかも、と一縷の期待をつないだからだ。それだけにあのラストには心底がっかりした。
2度目は興味深かった。もしかしたら、違うのではないか、という主人公の期待に、読み手である僕も乗せられた。同じことはしない、と思ったからだ。宗教に走るのではないか、とも、思わせたのも、ありがちだけど、悪くはない方向だと思わせた。だけど、結局はそうじゃない。1か月で100万円の臨時収入なんていう、うそくさい誘いに誰も乗らない。でも、そこに真実を描けれたなら、なんだか、凄いことになるのではないか、なんて甘い期待をした僕がこの小説に騙されるのは必定だ。