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映画・演劇のレビュー

工芸高『宇宙人の壁の中で』  (改訂版)

2013-07-23 06:46:20 | 演劇
 これはおかしい。もちろん、それは「いい意味」で言っている。工芸高はいつもへんな芝居を作るのが伝統だが、今回はそれがかなりの確信犯だ。作、演出を担当した浜本克也クンは、感性(本能、と言ってもいい)ではなく、頭(理性ね)でこれを作っている。だが、いつものような感性だけで勝負する周囲にいる工芸生たちは、彼の意図を汲まずに暴走するから、そのねじれが最初は見えにくい。

 作者の意図がよくわからない芝居になる。だから、これはおもしろいのだ。つかみどころのない、気持ち悪さがとても、いい。頭のねじが平気で何本も抜けたまま生きているようなやつらが出てくる。それは、自然なので、あざとくならないのもいい。主人公のスミスを演じた平山輪クンは、へらへら笑っているさわやか少年で、彼とコンビを組む吉田未夢さんは天然である。この2人のコンビネーションがすばらしいから、周囲の常識人との落差が心地よい。

 宇宙人が地球にやってきて、いつの間にか、なじんでしまった近未来。そんな時代を舞台にして、そこでは、なぜか、宇宙人が突発的に決まりを作り、それが遵守される。彼らが地球を支配しているというわけではないようだが、彼らの決まりは絶対みたいで、人間はどんな法律でも、施行(通達?)されたら、逆らわず受け入れることになっている。(これって、今の僕らのこと?)だが、彼らは別に人間世界を征服するとか、危害を加えるとか、そんな気はないようだ。空には彼らの宇宙船が、ぷかぷか浮いているみたい。表面的には実に平和なのだ。

 宇宙人が気まぐれで「明日から音楽はナシね!」とか、言った。だから、明日から音楽は世界からなくなることになる。みんなは仕方ないことだ、と諦める。だが、スミスは、それっていやだ、と思う。だから、「バンドやろうぜ!」とか、呼びかける。とても軽いノリ。反抗するため、とか、レジスタンス、とか、そんな悲壮感はまるでない。話の流れからすると、これは宇宙人との全面戦争の突入、とか、なのだが。

 この芝居のいいところは、そういう部分なのだ。へんに冷めているくせに、いきなり大胆。ラストはライブシーンで、宇宙人の攻撃を受けて、どうなるのか? という話になるのだが、ここでも、軽さこそが身上で、いいのか、あの終わり方で、と思わされる。もちろん、これでなくては意味がない。ただ、もっとひねりがあるのかと、思っていただけに、あのあまりにあっけない終わり方には、少しがっかりした。ここまで広げた風呂敷を収めるのは難しかったようだ。(収拾をつけられなかったのか、常識的な終わらせ方を望んだのか)

 いつの間にか、ケイタイが広まったように、いつの間にか、ウチュウジンが日常化する。生活の中に普通に宇宙人がいる日々のなかで、いろんなことが、慣れたから当たり前になり、何も感じなくなること。それが、描かれている。怖い話だ。だが、それをことさら強調することなく、さらりと見せる手つきは鮮やか。


(追記)

 私も工芸高校、観劇しました
そこで、ふと気になったのですが
スミスとコンビを組むマホル役の方は、違うお名前では無かったでしょうか...?
私の勘違いでしたら申し訳ありません、このコメントは反映しなくて結構です^^

 という、コメントをもらった。「反映しないで」と言われたけど、とても気になった。しかも、もうパンフを失くしたし。マホル役の女優さん(もちろん、高校生)の名前は間違いでしたら、ごめんなさい。でも、僕が思っている相棒って、一緒にバンドやろ、って言ってついてくる工場の新人の女の子で、それってマホルっていう名前でしたっけ? そのへんからして曖昧。すみません。



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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-08-05 17:26:47
こんにちは

工芸演劇部の者です。


こんなに評価していただいてありがとうございます。
本当に嬉しい限りです。

気になったのでコメントさせていただきます
役者の名前なんですが
まほる役(すみすとコンビを組む)は能登翔子です。
吉田美夢はいすて役(すみす、はいぷといつも一緒にいる女の子メインキャスト)です。

失礼しました
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