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映画・演劇のレビュー

SSTプロデュース『星の時間』

2012-10-05 23:03:31 | 演劇
 船場サザンシアター1周年記念公演だ。でも、特別なことはしない。というよりも、これはいつも通りだ。今回も2人芝居で、別役実の小さな劇を当麻英始さんが丁寧に見せる。主役を演じる男女の組み合わせは毎回変わる。そのキャスティングもいつも楽しみだ。今回は2VS2の長橋秀仁さんと、もりのくるみさんというカップリング。とても意外で、新鮮な組み合わせだ。彼らが難解な別役世界にどう挑むのか、興味津々で、劇場に。

 確かにいつもの長橋さんが、そこにはいる。だが、それは、舞台で様々な顔を見せる2VS22の彼ではない。今回の彼には余裕がない。1本調子で、変化がない。この役を演じるだけで四苦八苦している。まじめな彼は、この摑みどころにない男をどう演じて分からなかったのではないか。終始おどおどしたままで、とても単調な芝居になる。目の前の不条理に戸惑うばかりだ。

 それに対して、もりのさん演じる女は堂々としている。いつものように、ここで自分の店である、星の見える食堂(ようするに、ここが野外であるということなのだが)をオープンし、唯一のお客であるその男を迎える。だが、堂々としている彼女の中に在る不安や、動揺を、彼女もまた、表現しきれていない。

 せっかくの別役世界を彼らは作りきれていない。だから、見ながら観客である僕は落ち着かない。居心地の悪さを抱えながら芝居の時間を過ごす。役者である彼ら2人のお互いの違和感が、作品に生のままで、出てしまっている。それは失敗ということだ。

 そんなこと、演出の当麻さんはちゃんとわかっていたはずだ。でも、そのまま、この芝居を作った。キャスティングのミスで済ますことはできない。いや、そうしないのだ。当麻さんはそんな失敗さえ楽しんでいるように見えた。若い2人がこの芝居の中で戸惑いながら今の自分に出来ることを誠実に見せようとする姿を、ちゃんと最後まで追い続けた。その結果、これはとても初々しい芝居になった。オリジナルの意図とは微妙にずれるけど、そんなこと気にしなくてもよい。

 星空のもとでの、一夜限りのたった2人の宴を、ちゃんと楽しめばいいのだ。そこには何の意図もない。偶然の邂逅を大切にして、ちょっと居心地の悪いディナーを過ごす。でも、そんな時間が、きっと後になると、いとおしい時間となる。今はまだ、そんな時間ではないので、なんだか、よくわからない時間だったな、と男は思う。女は、そんな日もあると思う。そして、長橋さんともりのさんもまた、同じように思う。それでいい。


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