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映画・演劇のレビュー

『ハンガーゲーム』

2012-10-05 22:50:31 | 映画
 この『バトルロワイアル』の「パチもの」映画を見ながら、ここまで猿真似をしていいのか、と誰もがあきれたはずだ。でも、誰も表立っては言わない。アメリカで大ヒットしたこの大作映画はなんと3部作構成で、すぐに、続編が作られるらしい。『バトルロワイアル』と比較すれば、これはたいしたバイオレンスではない。映画を見ながら、これはそのストーリーほどには、『バトルロワイアル』と似ていないということにも、驚く。

 このお話は、大人の世界の論理に振り回される子供たちの反乱を描くための第1章なのか、と見終えて思う。しかも一種の寓話である。まずは圧倒的なバイオレンスである『バトルロワイアル』とは方向性が違う。これはもっと大きな構造を描くドラマだ。ハンガーゲーム自身を見せるための見世物映画ではない。

 そういう意味で、意外にも実に興味深い映画だったのだ。ただ、それだけに日本語字幕でラストクレジットに『ハンガーゲーム2』公開決定、なんていう文字を入れるのは、やめて欲しい。とりあえずこれは1本の映画として完結しているのだから、そこは大事にして欲しい。最近は最初からシリーズ化を前提にしたような映画が増えているが、そういう商業主義が映画産業をどんどん衰退させることに映画業界は気づかないのだろうか。本当にバカである。これは3部作である前に、さらには続編のための序章ではなく、1本の独立した映画なのだから。

 バカバカしいくらいに悪趣味デザインの上流階級の衣装やメイク、首都の都市空間デザインも同様である。この映画の姿勢がそこから確かにうかがえる。支配階級のグロテスクと虐げられた下層階級というよくある図式を、子供目線で見せていく。ハンガーゲームに選ばれた12州、24人の男女が、ゲームのために首都に集められる。そこでマスコミの取材攻勢を受けながら、まるで芸能人のような歓待を受ける。彼らは代表選手だから、当然のことだろう。だが、彼らが競うのはスポーツではなく、殺し合いだ。そんな事実を忘れさせるくらいの眩しいばかりのスポットを浴びる。

 映画はクライマックスの殺し合い自身に比重を置かない。そういうシステムの問題、構造を浮き彫りする。政治に利用されているだけなら、今度はそんな政治を利用してやる、と思う。故郷に凱旋し、表面的なハッピーエンドに見せかけながら、本当の戦いはここから始まることを、見事に表現したラストのあっさりした切り上げ方がいい。



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