代表作『幼な子われらに生まれ』を始め数々の商業映画の秀作を手掛ける三島有紀子監督渾身の力作。初めて自主製作した作品。
自らのトラウマに切り込み、東京テアトル配給で商業映画として劇場公開した。キャストも主演のカルーセル麻紀、哀川翔、前田敦子以下多彩な役者陣が揃う。
妥協は一切なし。やりたいことをやりたい通りに提示する。だけど独りよがりのわがままな映画にはならない。シンプルで哀しい。ストレートすぎて見ている僕らは狼狽える。わかりにくいことも気にならない。説明しない。自らの心に忠実に作った。4章仕立てで別々の場所で生きる3人のドラマを綴る。北海道の摩周湖、東京の八丈島、大阪の堂島。
摩周湖でレイコの死を引きずったまま生きてきた父親マキ(カルーセル麻紀)は男を捨てて女として生きてきた。娘を亡くしたことがきっかけだ。父親として彼女を守れなかった傷みを抱えて50年近くの歳月が経つ。もうひとりの娘は新年に夫と娘を連れてやってくる。家族で正月を祝う。
八丈島で暮らす誠(哀川翔)のところに身重になってひとりで娘が帰って来た。父は何も言わずに彼女を迎える。お腹の赤ちゃんのことも聞けない。娘も何も言わない。
以前付き合っていた男の葬儀で大阪に帰って来た女、れいこ(前田敦子)は街をさすらう。6歳の時、性的暴行を受けた傷みをずっと抱えて今日まで生きてきた。自分は汚いと思い、誰かに愛されることはないと思う。大好きな人にも心を開けない。彼の死という事実に打ちのめされながら記憶の街をさまよう。
映画はレイコの死の記憶から始まり、もうひとりのれいこの今をモノクロで見せる。最終章はマキの叫びと、れいこの魂の放浪の果てを描く。ぼろぼろになりながらも生きる。三島監督は敢えて、「それでも、一月の声に歓びを刻め」と言う。決して完成度は高くない。だけどこの叫びに心揺さぶられる。