習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『一命』

2011-10-21 20:15:48 | 映画
 3D時代劇巨編なら、『十三人の刺客』でやるべきだったのではないか。なのに、これである。ありえない。この素材を3Dで見ることにいかほどの意味があるのやら、想像も出来ない。これはじっくりお話と向き合うべき作品だろう。実際そんなふうに作っている。三池崇史なのに、である。

 なのに、そんな正攻法で作られた映画を、3D眼鏡をかけて見る。それって、なんか間抜けではないか。まぁ、僕は3D嫌いだから通常版で見たのだが、絶対これは3Dである必要はない。

 言わずと知れた仲代達矢主演、小林正樹監督による傑作『切腹』の再映画化である。今の時代に、なぜこの映画を作るのか。まず、そこからしてよくわからないが、気にせず見る。だが、見終えてもその答えは見えてこない。

 映画自体はよく出来ている。回想シーンがちょっと長いけど、全体を考えるとあんなものだろう。だが、できることなら、回想を全部削除して、瑛太の切腹から、一気に海老蔵の切腹へとなだれ込むほうがよかった。そうすると、1時間くらいの映画になってしまうだろう。でも、それでもいい。そのほうが面白いではないか。海老蔵が話し始めるまでの緊張感は凄まじいものがあるし、おいおい、このままではもう終わるじゃないか、と思わせるくらいにそこまではテンポもいいし、いきなりのクライマックスである。

 なのに、そこから懇切丁寧にそこまでの経緯が語られる。僕が役所広司なら、こんなだらだらした話は聞かない。みんな辛抱強いなぁ、と思った。オリジナルの方はここまで説明しなかったのではないか。もっと全体のテンポはよかったはずだ。でも、先にも述べたが、この回想まではこの映画は抜群である。役所広司の家老が、2ヶ月前の狂言切腹の話を海老蔵に話すところも、上手く収まっていた。瑛太のこのエピソード経由でこの映画全体がどう収まるのか、ドキドキさせる。(まぁ、僕はオリジナル版を見ているから、話を知っていたけど)海老蔵が何者で、どんな意図でここに来たのか。彼が何をしでかすのか。何も知らない人はかなり面白いのではないか。それだけに復讐の理由を延々言葉で(しかも回想シーンとしてまるでそれをこの映画の本筋ように描くのだ)語り見せるのはがっかりだ。原作なんかどうでもいいから、ここから先はもっとオリジナルな展開を作ってもよかったのではないか。武士道残酷物語なんか今の時代に何の意味もない。貧乏話を延々と見せられてもやりきれないばかりだ。

 ラストの大立ち回りはお約束だが、でも、でもそんなことより海老蔵の見事な切腹が見たかった。なぜ彼が腹を切るのか。武士の本懐とは何か。自ら腹かっさばいて命を断つことにどんな意味があるのか。そんなことをこの映画には見せてもらいたかった。

 と言うことで、結局はこの映画が描きたかったものは何なのか。これではよくわからないままだ。復讐ならこんな回りくどいことをしなくてもいい。自分たちの身の不運を嘆き、聞いてもらうことが目的なら、もっと穏やかなラストも可能だったはずだ。大立ち回りがしたかったのなら、竹光ではなく、本物の刀で殺せばいい。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コンブリ団『ヒトタビ、』 | トップ | 『ペルシャ猫を誰も知らない』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。