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映画・演劇のレビュー

『ペルシャ猫を誰も知らない』

2011-10-23 19:33:19 | 映画
 政府無許可のもと、ゲリラ撮影によって作り上げられた作品。イランには宗教的な理由かららしいが、西欧音楽に対する規制があり、自由にロックを楽しむことができない。そんなバカな話が、と思うがこれが事実で、それでも音楽が好きで、音楽とともに生きたいと願う数多くの若者たちは警察の目を盗んで、ライブ活動や、練習をする。地下の密室で、牛小屋で、ビルの屋上で。この映画はそんな彼らの姿をドキュメンタリータッチで描いた。

 主人公の男女はこの国を出て、自由に自分たちのロックをたくさんの人たちに向けて発信したいと願う。そんな彼らがバンド仲間を募り、この国から脱出するまでの日々を描く。果たして彼らの夢は叶うのか。基本はそんなストーリーだ。だが、この映画が描くのは彼らだけではない。その背後のたくさんの人たち、彼らも当然隠れて自分たちの活動をしている。そして、そんな彼らを支援する人々もいる。主人公の2人を通してそんな人々の様々な姿が描かれていく。たかが、音楽。だが、それを政府は反政府活動として弾圧する。そんな理不尽な国家の在り方に対してささやかな抵抗をくりひろげる。

 今、この世界で、こんなことが厳然と行われているという事実に驚く。僕たちは本当に何も知らない。先日見た『ビルマVJ』の時もそうだった。自分のあまりの無知に愕然とする。でも、いろんなことって、その内側に入り込まなければ、何も見えてこないのも事実で、映画が僕たちに教えることは大きい。

 この映画にはストーリーらしいストーリーはほとんどない。半分くらいはドキュメンタリーなのではないか、と思う。彼らにカメラを向けて、今自分たちがしていること、感じていることを映画として表現してもらっただけ。それをバフマン・ゴバディ監督はほぼ素材のまま丸投げにする。そう言う意味でこれは即興ライブだ。何らかの答えを出すためのものではなく、この現実をきちんと伝えるためにある。「たかが、音楽」と最初に書いた。だけど、その音楽のために命を投げ出す覚悟が彼らにはある。それは政府へのレジスタンスではなく、自由への抵抗なのだ。彼らは音楽を通して生きている。決して屈することはない。政府が怖れたのはそんな彼らの生き方なのだろう。


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