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映画・演劇のレビュー

劇団未来『ワーニャ』

2011-10-21 20:03:39 | 演劇
 とても新鮮な芝居だった。こういうタイプのリアリズム演劇としてチェーホフの古典がリニューアルされるとは思いもしなかった。しかも劇団未来がそんな芝居を作るなんて、想像もしなかったから驚いた。奇を衒ったことをしているのではない。正攻法である。だが、表だってメッセージを前面には出さない。そういうアプローチが新鮮だったのだ。100年以上前に書かれた作品なのに少しも古くささがない。今の時代の息吹すら感じさせる。

 もちろんそこが今回の演出の意図で、これは狙い通りのものなのだ。敢えて淡々とした描写に徹する。感情を大仰に出さない。抑えられた想いは鬱屈したままだ。それが爆発する瞬間を見せたいのではない。爆発する前の沈潜した状況の方が見せたい。自分の想いを内に秘めたまま何気ない会話を交わし合う。その緊張感がこの芝居の持つ力だ。だから淡々とした会話が続くことになる。作品自体をリライトしたわけではないだろう。原作には忠実に作られてあるはずだ。だが、当時のリアルではなく、今の感覚で演出は、見せる。これはアプローチの問題なのだ。見ていてドキドキさせられる。白樺の林をイメージした舞台美術もとてもいい。全体を白で統一した空間は、彼らのまっすぐな気持ちと、壊れそうな傷つきやすい内面を象徴する。さらには冷たく冷え切った心。この清冽な空間は自然体で繰り広げられる内面のドラマと、とてもよくマッチしている。

 ただ、ラストはちょっとしつこすぎて残念だ。あそこまで引っ張ることはない。もっとあっさり終わらせてもよかったのではないか。そこまでのタッチと違いすぎた。クライマックスだからか。そこにメッセージが込められるからか。そんなことをしなくても言いたいことは充分伝わってきた。だから、あそこまですることはない。

 震災をイメージさせるラストも、とってつけたようで意味がない。もちろんそれは激動の帝政ロシア時代の終わりを象徴させるためなのだろうが、震災以降の暗い気分と、彼らの心情をオーバーラップされるのはあざとい。

 ある時代の終わりを恋愛物語と絡めて描いたオリジナルに、環境保護の問題や現代につながる様々な要素を交え再構成してある。「それでも生きていきましょう」と言うソーニャのことばに未来への希望を託したのだろうが、それだけでは、あそこまで引っ張っておいて、あまりに当たり障りのない終わらせ方ではないかと思う。抑えきれない感情の起伏と、それをぐっと押さえ込もうとするひとりひとりの冷静さ。丹念に描いてきただけにもったいない。


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