伊藤ちひろの監督デビュー作。行定勲の脚本家として活躍した彼女が行定監督プロデュースで、監督業に挑んだ。苦節10年、ようやく念願がかなったようだ。しかも彼女は来月公開の第二作(先の大阪アジアン映画祭ではクロージングに選ばれた)まで控えている。怒濤の快進撃だろう。今回の作品、ポスターのデザインもいいし、なんだか期待できる、と思ったが、批評家からはかなり厳しい評価を受けているみたいだ。だから反対に僕の期待は高まる。(天の邪鬼だなぁ)
見た映画はかなりとんがった映画で、ふむふむと思いながら見始めたのだが、だんだんガッカリしてきた。あまりに独りよがりが過ぎて、ついていけない。先日見た『零落』と少し近い感じ。観客を置き去りにしていく。もちろんそれでも面白いなら構わないけど、つまらないから問題なのだ。有無を言わさず引っ張る力はない。ただの自分勝手なわがままにしか見えない。
挑発的な映画で、それはいい。主人公に感情移入できなくても構わない。だが自己満足はダメ。井口理演じる歯科医は他者と上手くコミュニケーションが取れない。職場の看護師にもバカにされている。患者の対応すらままならない。そんな彼なのに恋人はいる。馬場ふみか演じるマッサージ師だ。植物に囲まれて暮らしている。部屋の鍵をかけないとか、いろんな意味で不思議な女だ。そんなふたりはお互いまともなコミュニケーションを取らないのに何故か一緒にいる。
彼女に振り回されていくのか、ただのマイペースなのか、よくわからない。そんなふたりの日々が綴られる2時間15分は長い。ダラダラ描かれていくばかりでストーリーを楽しむ映画ではない。だいたい何がしたいのかわからない。そりゃ評判は悪くなるだろう。さらには河合優実演じる第二の女が出てきて、さらに混迷してくる。馬場の友人で、挑発的な女。井口は彼女を避けるが、結果的に振り回されていく。だがだからと言って何があるわけでもない。三角関係のラブストーリーみたいな図式だけど、そうでもない。
彼はラストでいきなり仕事を辞めて長崎に行くと母親に告げる。唐突すぎて茫然とする。だいたいいきなり登場するこの母親のなんだか変な女だ。母はいつも友人の女性と行動を共にしている。ふたりは同性愛なのか、よくわからないし、たぶんそこは(少しは気になるけど)どうでもいいことだ。だけど、なんか変な感じ。いろんなことが一切説明がないままでダラダラと描かれていく。あげくは殺人とかまで、さりげなくある。
脚本にはセリフが極端に少ない。もちろん説明セリフなんてない。ただどこかにたどり着いたわけではない。長崎には何の意味もない。いいのか、これで。それから道に寝てはいけません。井口は車にひかれて足を骨折したし。なのに馬場はなんだか駄々をこねて同じように道で寝るし。