SNSでのつぶやきを中心に据えた恋愛劇。「いかにも」の世界を、ありふれたやりとりで見せていき、ありきたりで誰もが思いつきそうな話なのだけれど、それをきちんと見せてくれるから、納得のいくドラマになっている。自分に自信が持てないから不安をつぶやきといいねで解消して、なんとか折り合いをつけている。目の前の人と直接コミュニケーションをとることよりも、不特定多数の見えない人とのやりとりに安心を得る。そんな人たちの群像劇。
言葉の海を漂うクラゲ。クラゲがことばを弄ぶ人々を見つめる。彼女はSNSの海を漂う。スマホを使って会話を交わす。実際に相手と向き合うわけではない。言葉だけが独り歩きしていく。複数の男女の関係性をネットを通して描く。現実に目の前にいる相手との会話以上にケータイ上での会話や、やり取りのほうが、リアルだと思うという不可思議な現実。クラゲは自分ではない。でも、それが自分が発した言葉である以上、それは自分自身のもの。
クラゲが見守る。クラゲは自分から何かを発するわけではない。ただ、言葉を伝える。それをただ見守る。まるで『ベルリン、天使の詩』の天使のようだ。彼女は(もちろん、クラゲのことだ)淡々としたタッチで彼らのやりとりを漂いながら、ただ、みつめている。
必要以上の説明や葛藤は描かれないのがいい。芝居はドラマチックな展開はなく、言葉を介しているにもかかわらず、そこに描かれるのは、彼らのすれ違いが描かれることになる。それがなんだか悲しい。この明確な「どこか」にたどり着くことのないお話をもどかしいと感じる人もいるかもしれないが、このタッチは僕には心地よく感じられた。作、演出の夏目周防は、今回は徹底的に、説明に堕することを避けようとする。その一貫した姿勢は潔く、とてもいいと思った。