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なんなんだろう、この小説は。あまりに不思議な世界で、読みながらこれは何?とずっと思って、何度も立ち止まってしまった。なのに止まらないから、一気に最後まで読んでいた。気になって仕方がないからだ。これはどこに辿り着くのか。話が面白くて止まらないわけではない。話なんて別にないし。ただ、彼女の身辺雑記。新人賞を獲り、作家デビューして単行本が出版された。周りは彼女を小説家として認める。ほんの少し注目されて、雑誌とかインタビューされたり。そんな彼女の日常が描かれる。同時に今書いている小説も同時進行で描かれる。(描かれている、みたい)この大学生の話は彼女の過去のことだと思っていたが、そうではないみたい。いろんなことが曖昧なまま、進んでいく。読んでいて不安になるくらいに曖昧。
最後まで読んでようやくほっとする。少し残念な気も。劇中劇で落ち着く。大学時代からの話は今書いている小説で、それを書き終えるまでの話に落ち着く。しかし、それは高瀬隼子の読者へのサービス。わからないデビット・リンチの映画みたいな不気味な小説にはしないけど、死人がふつうに出てくる。
ひとつは朝陽が働いているゲームセンターでの話。そこでのささやかな付き合い。死者もやって来ていた。もうひとつは大学生の頃の仲間たちとの話。近所の中華屋の息子(真面目な中国人)と付き合う。ふたつがやがて交錯して、混ざり合い、現実と虚構の狭間がなくなってくる。そこに死人や幽霊まで出て来て、それが現実世界の出来事かもしれない、という展開になっていく。もちろんすべて小説だというとそれまでだけど、作中の朝陽が書く小説と高瀬さんが書くこの小説の境界線までごっちゃになってくる。
さらには、もうひとつの小説が続く。併載された短編『明日、ここは静か』である。冒頭の記事で、芥川賞受賞インタビューが描かれるのには驚かされる。これは小説で『うるさいこの音の全部』の続編だから、主人公、朝陽(作家としてのペンネーム有日)の話だが、わかっているけど、そこに芥川賞作家、高瀬隼子を重ねて見てしまう。もちろん高瀬さんもそこを狙って書いている。
作家は嘘をつく。インタビューでつい話を盛ってしまう。嘘とほんとの境界が曖昧になるのは『うるさいこの音の全部』と似てるけど、こちらは短編でストレート。作家高瀬のほんとが嘘の小説にまぶして描かれてあるのか? これは本編のオマケとして受け止めよう。