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映画・演劇のレビュー

内山純『レトロ喫茶おおどけい』

2023-11-14 06:18:00 | その他

ついついこういう緩い小説を手に取ってしまう。電車の中で読むのにちょうどいいからだが、働いてないから今は週に3回くらいしか電車に乗らない。働いていた時は毎日電車の往復の間しか本を読むことが出来なかったが今は生活の中心に読書時間がある。昔はそんな暮らしに憧れていたけど、実際のところそうなるとこれはこれで退屈。まぁ、人間わがままだから仕方ない。

さて、この小説だが、あまりに緩すぎて物足りない。昨日の『可哀想な蝿』くらいにスパイスが効いているくらいが望ましいけど、まぁこの程度の甘口もたまには悪くはない。昨日電車の中で読み始めて、今朝残りを読んだ。5つのエピソードからなる連作。扱うのは結婚、出産、育児、認知症、就職とか将来への不安。あらゆる世代の人たちがやって来て、そんなどこにでもある悩みを抱える彼らを癒す喫茶店。ここに来たら店の主人(88歳のハツ子さん)の過去に戻って、彼女の記憶を旅することができる。一瞬の夢として。そこでの体験を通して今の自分に還元する。要するに疲れていた体と心が元気になる。

まぁよくあるパターンなのだが、安心して読めて温かい気分にさせてくれる。ゲストのメンバーもさまざま。認知症になった母親と介護する娘の話が身に沁みたが、ラストの20歳の自分の考えを持たない青年の話が素晴らしい出来。オレオレ詐欺の受け子をしそうになる彼を助けて、自分に必要なものを示唆してくれる若き日の祖父が登場する。大きな古時計が導いてくれる昭和の風景が今を生きる孤独な人たちを助けて、応援する。


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