このタイトルはホテルのこと。初めての部屋で泊まるときめき。しかもそれが帝国ホテルである。3つの帝国ホテル(東京、大阪,上高地)を舞台にした42の短編集。
ほんの一瞬の光景がさらりと描かれていく。さりげなく、なにげなく。そこではなんでもないことにでも心が動かされそうになっていく非日常の時間がある。一流ホテルに泊まることは特別なこと。そこでの時間は人生の中でも特別。そのいくつもの時間がここには描かれていく。
旅して泊まる場所は、帝国ホテルじゃなくても特別だ。いつもと違う部屋。もう一度泊まることは滅多にない一期一会の場所。(たぶん)そこでのなんでもない出来事まで、後で記憶に残ることもある。旅の記憶の断片には確実に泊まったホテルの光景が付随してくる。
たった5ページの掌編。一瞬の光景や感情。それがそのまま描写される。あまりにさりげなくて、読んだ瞬間には消えそうになる。大切なことが描かれてあるというのに。記憶に残る出来事と連動していく。長い歳月とひと時の感傷。旅する醍醐味が帝国ホテルという場所にも連動していく。