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映画・演劇のレビュー

瀧和麻子『東家の四兄弟』

2023-11-20 08:00:00 | その他

『団子三兄弟』ならぬ四兄弟のお話。3人の話が交互に展開して,やがて満を持して長男が登場する。実はもう彼は出ないのではないか、と思うくらいに忘れられている彼がさりげなく登場してすぐに九州の自宅に帰ってしまう。だからこれは四兄弟の話だけど、実質三兄弟の話で進行していく。

兄帰るのエピソードから話が動き出すのかと思ったら、まるでそうじゃないのは少し驚き。ある種のパターンにはならないのだ。だからといって新鮮な展開は期待できない。これは瀧羽麻子史上初めての退屈な小説。(当社比)

どうしてこうなったのか。これは確信犯なのか。如何なる意図なのか、気になる。その答えは徐々に明らかになる。ここ(実家)には不在の長男の存在もまた少しずつ大きくなる。そして父親の入院(これもたいしたことはない)へと。話はゆっくりと動いていく。大きな出来事は何も起きない毎回を通して,少しずつ変わっていく家族の姿を描こうとする意図なのである。
 
そしてこれは家族のお話だ。占い師という家業は特異だが、それ以外は、どこにでもある家族。四兄弟というのは最近ではなかなかない大家族だけど、十分あり得る。そこでのひとりひとりを丁寧に描きながら彼らが抱える問題を浮き彫りにしていく。お話で引っ張るのを敢えて避けて、日常描写の積み重ねから彼らが直面する問題へといざなう。瀧和麻子は退屈にも見えるなんでもない日々の積み重ねの先にこの4人のドラマを現出させた。

そこにはもちろん両親も重要なポジションで介在する。終盤になってようやく家族を持たなかった母親がクローズアップされてくる。彼女は孤児院で育ってやがて4兄弟の父になる男に出会い家族を作った。彼女はこの家族を大切に想う。それだけでいい。ラストのまさかの家族全員でのハワイ旅行が微笑ましい。

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