習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『闇の子供たち』

2008-08-18 22:35:28 | 映画
 なんて恐ろしい映画だろう。そして、なんと勇気のある映画だろう。これだけの事実を現地ロケで描いて見せた、そのことだけでも感動する。映画はフィクションだ、なんて言わさない。ここに描かれた事実がどこまで現実に迫っているのか、あるいは現実はこの映画すら凌ぐくらいに凄まじいのか、そんなことはわからない。

 だが、この映画の気魄は僕たちを圧倒する。ドキュメンタリー以上にドキドキする。今見ている出来事が、たとえフィクションであろうとも、カメラで撮影され、役者によって演じられている。タイの現実の風景の中で撮影され、映画という事実として見ている僕らに迫ってくる。作り物のちゃちさはない。この緊迫感、危機感は事実に匹敵する。映画の真摯さが、テーマの切実さが、見ている僕らに迫ってくるのだ。

 臓器売買の実態、子どもによる売春の現実。それを江口洋介演じる新聞記者の目を通して見せていく。告発ではない。目を背けたくなる現実を突きつける。何とかしなくてはならない、と思う。だが、どうしようもない。命の危険すら顧みないのは正義感なんかではない。ただ、最後に彼の行為を支えていた事実が暴露されるが、あれにはなんだか、納得しない。彼の執拗な取材はなんだったのか。罪悪感、というのとはなんだか違う。なのに、あんな結末を用意したら、映画自体が嘘になる。

 だが、敢えてああいうラストを用意するのなら、もう少し彼の内面にスポットを当ててもよかったのではないか。これが映画である以上フィクションだから描きえる事実が必要で、それは彼が過去に何をしたか、という事実を衝撃の結末として提示するだけではなく、そこからもう一つのドラマを紡ぎ、映画の描いた現実と拮抗させるだけのドラマを作るべきである。

 この映画の中で一番凄いのは、子供たちのアップが何度となく捉えられる、そのシーンだ。。その度に目を背けたくなる。痛ましい姿から目を逸らしてはならない、とわかっていても、そんなこと、不可能だ。彼らの視線をまともに捉えたこと。ひるむことなく、彼らにカメラを向け、そんな視線に拮抗する映画を作ろうとしたこと。阪本順治監督が身を削る思いをして作り上げた渾身の力作である。いくつもの弱点はある。だが、その視線の真摯さと勇気は讃えられていい。

 

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1 コメント

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いやー違うでしょう。 (まじん)
2008-09-13 00:30:01
私も先日鑑賞いたしました。
この映画は絶対にこの終わり方でないといけないと思いました。
私のブログに感想書きました。
読んでみてください。勝手ながら広瀬さんの文章を引用しています。事後承諾ですが、お許しください。
この文章に対するリンクもはってます。
こちらも事後承諾ですが、お許しください。
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