村上龍初の本格恋愛小説である。彼は(たぶん)やると決めたら徹底的にしなくては気が済まない主義なので今回もとことんやってくれる。600ページに及ばんとする大作で、50代の経済的にも満たされた男と、30代で病気を抱えた風俗の女の不倫を描く。男はお金に物を言わせて何人もの女を自由にしてきた。そんな中、偶然出会ったこのひとりの女に入れ込んでしまう。最初はいくらなんでもこの設定はないだろう、と思った。村上龍らしい露悪的なキャラクターだ。気分が悪くなる。でも、彼はわざとこういう主人公を選ぶ。
このこれ以上ありえないような鼻持ちならない男が主人公なのに、その男のひたむきさにいつのまにか共感してしまう。わざと人の神経を逆なでするようなこういう設定を選び(まぁ、彼としてはとても扱いやすいし、そこにこそリアルが表現できるのだろうが)そこで弱い女と強い男という関係から、庇護される側とする側という図式だったのが、微妙に逆転していく。まぁ恋愛に於いてはよくあることかもしれないが、話はそういう王道を行く展開となる。
生きていく上で恋愛はどんな意味を持つのか。仕事とのバランスはどのへんにあるのか、とか、そんなことを考えさせるような小説なのだろう。恋愛自体がテーマではない。だが、恋愛を村上龍が描いたならこんなふうになるのだろう。これは絶妙な距離感だ。
ファンドを立ち上げる医療ビジネスについての部分も面白い。そちらの描写が丁寧に描かれるので、当然ただの恋愛ものにはならない。でも仕事と恋愛とのバランスなんて話ならわざわざ村上龍が書かなくても山盛り誰かが書いている。とはいえ、この医療ビズネスへの投資の話にぐいぐい引っ張られていく。
たが、その部分も含め後半ちょっと予定調和になるのは惜しい。女の病気が再発し心が弱くなったところから、死んでいくまでの部分がどうしても難病もののパターンに近いものとなり、そこまでのタッチから外れていく。そこもわざとかも知れないがパターンからどんどん逸脱していくところが彼のやり方だったはずなのに、パターンに収斂するのをシニカルに見つめるというのはなんだかちょっと違う気がする。
それにしても気恥かしいタイトルだ。わざとだが、よくこんなタイトルをつけたものだ。そこに込められた村上龍なりの覚悟は確かに伝わっては来るのだが。
このこれ以上ありえないような鼻持ちならない男が主人公なのに、その男のひたむきさにいつのまにか共感してしまう。わざと人の神経を逆なでするようなこういう設定を選び(まぁ、彼としてはとても扱いやすいし、そこにこそリアルが表現できるのだろうが)そこで弱い女と強い男という関係から、庇護される側とする側という図式だったのが、微妙に逆転していく。まぁ恋愛に於いてはよくあることかもしれないが、話はそういう王道を行く展開となる。
生きていく上で恋愛はどんな意味を持つのか。仕事とのバランスはどのへんにあるのか、とか、そんなことを考えさせるような小説なのだろう。恋愛自体がテーマではない。だが、恋愛を村上龍が描いたならこんなふうになるのだろう。これは絶妙な距離感だ。
ファンドを立ち上げる医療ビジネスについての部分も面白い。そちらの描写が丁寧に描かれるので、当然ただの恋愛ものにはならない。でも仕事と恋愛とのバランスなんて話ならわざわざ村上龍が書かなくても山盛り誰かが書いている。とはいえ、この医療ビズネスへの投資の話にぐいぐい引っ張られていく。
たが、その部分も含め後半ちょっと予定調和になるのは惜しい。女の病気が再発し心が弱くなったところから、死んでいくまでの部分がどうしても難病もののパターンに近いものとなり、そこまでのタッチから外れていく。そこもわざとかも知れないがパターンからどんどん逸脱していくところが彼のやり方だったはずなのに、パターンに収斂するのをシニカルに見つめるというのはなんだかちょっと違う気がする。
それにしても気恥かしいタイトルだ。わざとだが、よくこんなタイトルをつけたものだ。そこに込められた村上龍なりの覚悟は確かに伝わっては来るのだが。