「広島県尾道を舞台にして、昔ながらの豆腐屋を営む職人気質の父と頑固な娘の心温まる愛情を描いたドラマ」(と解説に書いてあった)は、あまりに古くさい昭和テイストの人情劇。時代背景は平成の終わり(2014〜15年)とあるがこの話が成り立つのは昭和50年代くらいまでであろう。
藤竜也と麻生久美子が親子を演じる。三原光尋監督は『しあわせのかおり』(これは良作!)につづき、藤とは3度目のタッグとなる。たぶんこれが最後かもしれない。それだけに気合いが入っている。
尾道を舞台化したのはやはり大林監督へのオマージュだろうか。僕たちの世代にとっては尾道を描く大林映画は今ではレジェンドだ。三原さんは同世代の監督で自主映画時代から見ているし、商業映画デビューの頃から(ほぼ)全作品をリアルタイムで見ている。(何本があまりに彼らしくない頼まれ仕事があるが、それを敢えて見ていない)だけど、あまり尾道が見えてこない。海辺で麻生久美子が藤竜也に「ありがとう」と言うシーンがある。『東京物語』の東山千栄子の「ありがと」を思い出す。なんで「ありがとう」なんだろうか。
甘い映画が多く、いつも詰めが甘く、残念な作品が多い。今回も同じだ。だけど、彼らしく優しい映画で、今自分がやりたいことを全力でやっている。前作『オレンジ・ランプ』以上に気合いが入っている。だから、空回りもしている。もう少しクールな視点が欲しいのだ。せめて『オレンジ・ランプ』くらいには。主演は藤竜也だが、麻生久美子とダブル主演になっているのはいい。出来るならもっと娘視点から作って欲しかった。映画への距離感が欲しいのだ。これではあまりにベタ過ぎて引いてしまう。娘の結婚と自分の恋が同時進行するのはいい。80前の老人が人を好きになり戸惑う姿は好感度が高い。
これは来週公開の山田洋次の『こんにちは、母さん』と対になっているかも、なんて一瞬思った。三原光尋はもしかしたら令和の山田洋次を目指しているのか、なんて、ね。藤竜也はなんだか寅さんみたいだし。
原爆に被曝して苦しんでいるという話もさりげなく描かれるが、これは少し取ってつけたみたいで唐突だ。かなり欲張って、その結果いろんなところで中途半端になっているのが残念だ。