習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『クワイエット・ルームにようこそ』

2008-08-12 22:06:35 | 映画
 松尾スズキ監督の第2作。前作『恋の門』はなんだかいただけなかったが、今回は快心の出来だ。主人公の内田有紀が素晴らしい。精神病院を舞台にして、ドタバタを見せていきながら、その実、シリアスなドラマを展開して見せる。病んだ人たちの姿を通して誰の中にでもある心の病をデフォルメしていく。極端な行動は病気だから、とは言い切れない。何が正常で、何が病気か、なんて紙一重なのだ。

 この病院は健常者の世界の縮図でもある。この映画は、そんな場所を舞台にして、自分をしっかり持って生きていくことの意味を教えてくれる。痛々しい映画だが、元気をくれる。そんな映画を松尾スズキが撮るなんて、なんがか不思議だ。

 生きていればストレスのたまることばかりが続く。慌しい毎日の中で自分を見失いそうにもなる。薬を大量に服用し、自殺を図った女が、目覚めれば、体を拘束され、ベッドに寝かされている。本人には何があったのか、記憶にもない。自殺の自覚もない。酔っ払って、無意識に行動したらしい。

 自分は精神病棟なんかに入れられる謂れはない、と思う。だが、現実には、ここにいて、ここから自由に出ることは出来ない。医者の言うことを聞き、安静にして、なんとか退院できるようにしようと思う。だが、なかなか思うようにはいかない。

 果たして、自分は本当に大丈夫なのか、それすらもわからなくなる。松尾スズキらしい過激な描写は、幾分控えめで、(とはいえ、相変わらずゲロとかはあります)それよりも、この環境をきちんと見せることに眼目を置いているようだ。もちろん彼の事だから、リアリズムの文体をとるわけではないが、抑えたタッチで主人公に寄り添うように描かれる。少なくとも僕たちも彼女と同じくらいには病んでいるのではないか、と思わされる。

 仏壇を巡るエピソードが、笑える。キャスティングも最高で、クドカンが素晴らしいし、ワンポイント・リリーフの妻夫木聡が変な男を快演している。こいつらのほうが、院内の人間よりビョーキだ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『自虐の詩』 | トップ | 7月から8月の読書(『長い... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。