公開最終日、駆け込みで見てきた。平日の朝1回だけの上映になっていたのだが、劇場はとてもよく入っていて驚く。服飾関係の専門学校の生徒たちであろうか、若い女の子でいっぱいの劇場で見る。見てよかった。予想以上の秀作で、これを見逃す手はない。
退職間近のお針子と、彼女がたまたま出会った女の子。そんなふたりのお話だ。ディオールのオートクチュール部門のアトリエ責任者エステル(ナタリー・バイ)は次のコレクションを終えたら引退する。彼女は誇り高いエリートだ。まだまだ働けるはずなのに、なぜ辞めるのか。今までこの仕事しかしてこなかった、自分の仕事に自信を持っている。仕事への覚悟と確かな技術を持つスペシャリストだ。だけど、今までの無理が祟ってきた。体は言う事を聞かない。
自分の仕事への矜持。その技術を誰かに引き継ぎたいという想い。スリをしている少女ジャド(リナ・クードリ)は、自分を持て余している。仕事もなく、うつ病の母親の介護だけの毎日。貧しくて、卑屈で、未来に何の希望も抱いていない。エステルは彼女の手先の器用さ(スリですからね)に心惹かれる。
これはそんなふたりが反発しながらも、やがてはお互いを労わり合い最後のショーに向かうまでの姿を描いていく。このお話自体はよくあるパターンで、新鮮さなんてない。そうではあるのだけど、この映画自体はなぜかこんなにも新鮮なのだ。それは主人公であるふたりのそれぞれの状況がとても丁寧に描かれてあるからだろう。だからスクリーンから一瞬も目が離せないし、緊張が持続する。仕事場での作業がドキュメンタリーのようにリアルに描かれ、そこからも目が離せない。手仕事の美しさ、繊細さ。それを見ているだけで満たされる。お話よりもそちらのほうが興味深いくらいだ。働くことの意味や、生きる意味。そんなことすら感じさせられる。僕は高級な服とかドレスなんて興味ないし、わからないけど、彼女はこの仕事に懸ける想いだけはしっかりとわかる。これは大切なものが何なのかを、しっかりと伝えてくれる映画なのだ。