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映画・演劇のレビュー

『トワイライト ささらさや』

2014-11-15 22:34:29 | 映画
深川栄洋監督の最新作なのだが、今回の彼はダメだった。ここまでは器用になんでもこなしてきたのに、しかもこれは彼にとってはきっと得意のジャンルだったはずなのに、そこをハズしてしまった。どうしてこういうことになったのだろうか。不思議だ。

この場合は、ファンタジーというジャンルを逆手にとって、リアルで見せるほうがよかったはずなのに、そうはしなかった。コミカルは苦手なはずなのに、敢えてそこで勝負をかけた。その結果ことごとくハズす。

まず、冒頭の落語のシーンからしてつまらない。下手な落語家のつまらない落語に彼女が笑う、というこのお話の取っ掛かりで、もう躓く。あんなにも簡単には笑えない。共感するには、「いっしょうけんめいだったから」という理由を成り立たせるだけのそこでの彼女の心の弱さが欲しい。壊れそうになる想いを何とか支えるため、ここで留まるため、たまたま見た下手な落語に共感を寄せる。そこに説得力がないことには、この話は先に進まない。

落ちこぼれ同士が肩寄せ合うというのでは、あまりに惨めだ。そうではなく、ふたりだけにわかる「何か」が欲しい。同じ大泉洋の主演作『青天の霹靂』にはそれがあった。あの映画の大泉も落ちこぼれのマジシャンで、柴崎コウ演じる彼女は彼を支える。パターンとしては同じ。ダメでどうしようもない男に惚れてしまい、彼を何とかして支えようとする女という図式。そこで大切なことは、理屈ではなく、感情だ。観客を納得させるだけの「それ」が欲しい。新垣結衣演じる女は、ダメダメ落語家の大泉洋を受け入れる。そこに説得力がないことには、話が成り立たない。

いきなり彼が交通事故で死ぬ。まだ生まれたばかりの赤ちゃんを抱え天涯孤独の身になる彼女の不安を支えるのは、幽霊となって現れる夫だ。東京を離れ、田舎町である「ささら」の町に戻ってきて、そこでひとり暮らすことになる。そんな彼女を町の住人たちと、幽霊になった夫が支えていく。『ゴースト NYの幻』のパターンなのだが、ただのラブストーリーでもファンタジーでもなく、彼女が住むことになるこの町の温かさがお話の根底をなす。ここで暮らすから彼女は立ち直れる。町の持つ地場力とでもいうべきものが、この映画の最大の魅力となるはずだ。

映画はここが現実から遊離した空間であることを強調するためだか知らないが、その風景をジオラマで見せる。そこにも違和感を覚えた。わざわざそういう手間のかかることをする必要性を感じない。そんなことよりも、この町のロケーションをもっと丁寧に描くべきではなかったか。さらには、この町のルックスを形成する人々との交流。そこを大事にしなければならない。そこで、その部分を支えるのが、彼女に何かとお節介を焼く藤司純子、藤田弓子、波乃久里子演じる三婆トリオなのだが、大事なポイントであるはずのそこが、なんだか嘘くさくて失敗している。コメディタッチのノリは超ベテランである彼女たちには難しい。こういうタイプの脇役を今までしていないからだ。さらには絶対に大切な役である大泉の父親。そこにまるで説得力がないのはどういうことか。石橋凌がまるで所在なく演じる。冗談のような存在感のなさと噓くささ。わざとしているのか、と思うほどの下手な芝居である。これはいろんなことを履き違えている映画だ。どうしてこんな映画ができたのか。わけがわからない。

原作は加納朋子である。つまらない小説であるはずもない。きっと脚本がミスしているのだろう。短編連作スタイルの小説を長編映画として再構成するためにはエピソードをどうつまんで、どこを残すかが難しい。あまりに気になるから、今から原作を読んでみることにする。その上で、また、感想は述べる。



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1 コメント

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>< (あみゅぱん)
2014-11-18 08:01:15
私も今日この映画を観てきました。

大好きな彼との初めての映画。
泣ける感動作を期待していたのに、冒頭から内容が薄くてペラペラ。。。

見終わった後の映画の感想を言い合うのがカップルの定番だと思うのですが、2人の口から出たのが「全く面白くなかったね」 「設定が薄いよね。おばちゃん3人とヤンキーっぽいシングルマザーってお話の中に必要だった?」 「何が言いたいのか解らない」 「監督誰だろう?きっと対した人生経験もないのに監督になっちゃたんだろうな。この人の作品はもう観ない。」

などなど・・・・

せっかく豪華なキャスティングをしてるのに、本当にもったいない感じです。

主様が書いている内容によると、ささらの町の人達との交流がキーポイントとなる原作のようですが、それが映画では全く伝わりませんでした。。
何だろう?・・変な人が多い町だな。位にしかとらえられなかったです。

主様の感想を読んで初めて映画の趣旨がわかりました。
評価もその通りだと思います。

今度映画デートする時は考えされられるような深くて楽しい映画を観たいので、今後は主様の感想を参考にして選びます☆
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