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映画・演劇のレビュー

ハコボレ『世別レ心中』『片生ひ百年』

2022-08-11 20:33:06 | 演劇

久々に前田隆成の芝居を観る機会を得た。彼の「古典落語×独演」シリーズも初めて見る。この5年間で8作品も上演していたようだ。この2年は本拠地も東京に移している。そして今回が久々の大阪凱旋公演になるという。東京で上演した2作品を同時上演する。彼はウイングカップに2度参加している。ハコボレとしての第0回公演と第2回公演としてである。ウイングは彼にとってスタート地点だ。ここから彼の演劇が始まった。そんなホームともいえる場所で今の渾身の力作を上演する。そこには、まだ誰もが見たことのない不思議な世界が繰り広げられる。

彼は常に前向きでいろんな新しいことへと挑戦していき自分の世界を一歩ずつ広げていく。一人芝居から初めて次は2人芝居。その後は3人芝居とキャストをひとりずつ増やしていくという冗談のような挑戦にも挑んだ。この古典落語と演劇のコラボも5年前からスタートしたようだ。ハコボレ誕生から6年。「再録ハコボレ落語研究会」と題されたこの公演は前田演劇の現状での総決算となる、そんな彼の作品を久々に目撃できてよかった。

「古典落語を一席した後、そこから着想された現代演劇が始まる」というコンセプトがこのシリーズらしい。今回まず、『世別レ心中』を見た。原作は古典落語の『鰍沢』。『高野聖』を思わせるとても単純なお話だけど、わかりやすいし、おもしろい。彼の演じる落語は決して上手くはない。本職ではないのだから、当然だ。でも、役者が演じる落語というフォーマットはなんとも新鮮だった。それは従来の落語ではない演劇落語。照明や舞台装置(セット)も援用した空間で演じられる。でも、それは逃げではなく、そこで正々堂々と落語を見せる。その直後、芝居が始まる。高座は、舞台となる。衣装も一瞬で変わり、音響も加わり、芝居が始まる。それはさらりと落語で描かれた世界を引き継ぐ一人芝居だ。『鰍沢』の男女のドラマとはまるで違うドラマが鰍沢を舞台にして描かれる。人間に化けた少年、九太と心優しい旅人との心の交流を描く。1時間ほどの小さな作品だけど、とても豊かな世界がそこには広がる。

さらに午後から、もう1本、続けて『片生ひ百年』も見た。さすがに2作目なので、1本目のような新鮮な驚きはないけど、こうして2本続けて見ると、前田くんがこのシリーズに賭ける想いがしっかり伝わる。自分の作ったスタイルを守り、その枠の中で冒険する。こちらは『紺屋高尾』を取り上げる。吉原を舞台にした大人のお話。でもこれは少年のような恋の物語。それを前田がさわやかに演じる。この落語の後の芝居は少ししっとりした世界でその対比もうまい。

いずれも、前田隆成が今、何を想い、何を求めているのかがしっかりと伝わってくる好感が持てる作品だ。そして、細部まで実に丁寧に作られた2作品だった。スタッフワークも素晴らしい。あの白と赤の対比が美しい舞台美術も素敵だった。必見。

 

 


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