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スタインベック「エデンの東」(土屋政雄訳)
2005年08月21日 / 本
今のところ今年ナンバー1の本。ジョン・スタインベックによる「エデンの東」です。なぜ今、「エデンの東」かというと、2002年の生誕100年の再評価の流れの中で、アメリカで影響力のあるブッククラブの選定図書となりベストセラーとなったんだそうです。それもあり、名翻訳家である土屋政雄さんによって新たに翻訳されました。エデンの東の新訳というだけでは手に取らなかったかもしれないのですが、マイケル・オンダーチェの傑作「イギリス人の患者」(映画題は「イングリッシュ・ペイシェント」)で全編詩のような小説を見事に日本語に置き換えた土屋政雄さんによる翻訳ということで購入しました。
スタインベックの「怒りの葡萄」と「ハツカネズミと人間」は厳しく非情な現実の中で生きる人間の力強さ、優しさを感動的に描いた20世紀の大傑作ですが、「エデンの東」は早川文庫に収録されていたというマイナーさもあってか何故かこれまで読んでいませんでした。また、ジェームズ・ディーン主演の映画も観ていないので、今回、初めて接する物語となりました。
19世紀後半から20世紀はじめの開拓時代におけるアメリカ西部、トラスク家とハミルトン家の3代にわたる家族のストーリーです。時代の動きに翻弄される人生、定住の地探し、結婚、子供の誕生、父の死、親と子の心の交流、親から子へ引き継がれる血の濃さ、そしてこの本のメインテーマの一つである兄弟間の愛憎が描かれます。
また、欲望、虚栄心に惚ける利己的な都市での生き方と荒れた大地を耕し家族や近隣と支えあう地道な農村での生き方とを対比させて、現代人が忘れかけている大事なもの、人間の生活の原点を思い出させてくれます。トルストイの「アンナ・カレーニナ」を髣髴とさせるところがあります。
単なる疑似体験に過ぎませんが、年に幾度か実家に帰り、そこで畑を耕したり、薪割りを出来ることに幸せを感じます。同じ運動でもジョギング、ゴルフ後とは違うビールの美味さ、筋肉痛、満足感が得られます。自然と共に生きること、田舎生活の良さを都会で生まれる我が子に教えることが出来るのかどうか、考えてしまいます。余談でした。
本を読む楽しみは予備知識のないストーリーを1ページ1ページめくって一喜一憂することにあると思うので、ストーリーの詳細は省略させていただきますが、映画でジェームズ・ディーンが演じた青年期のキャルが登場するのは、全900ページ中の最後の1/3だけですので映画と小説は別のものだろうと想像します。
人間誰もが犯す罪に打ち勝つのは、予定されていることでも、命令されてやることでもなく、可能なこと、選択できることだというメッセージに感動しました。
全般的には決して説教臭いお話しではありません。近代化が進む時代の雰囲気を感じさせるシーン、ユーモラスな会話、人間臭いシーン、人間の心の不思議さを感じさせるシーンなど印象的な展開続きで気軽に楽しく読めます。構成力、オリジナリティ、芸術としての完成度からすると「怒りの葡萄」がスタインベックの最高傑作かもしれませんが、スタインベック本人も生涯最高の一冊と気に入っていただけあって、人間の魂の偉大さを生々しく描き切った点では「怒りの葡萄」にも匹敵する作品です。この手の真面目な成長物語は個人的にも大好きです。
この歳になって、まだこんなに感動できる本に出会えたことに感謝したいと思います。土屋政雄さんにはもっともっと欧米の名著を翻訳していただきたいものです。
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ベーム/ウィーンフィル「モーツァルト交響曲第29番」
これまでモーツァルトの交響曲を取り上げていないことには深い意味はありません。どの曲も、どの指揮者の演奏もほとんどが素晴らしいので、その時の気分で好きなディスクを聴く、それが自然な付き合い方だからです。ただ聴いて、楽しむ、生きている喜びを感じる。
ところが、大好きな曲なんだけど、全ての指揮者の演奏がよい訳ではないのが交響曲第29番です。後期の第36番“リンツ”、第38番“プラハ”のような多様なメロディ、展開の楽しさ、第39番、第40番、第41番のような華麗さ、深さはありません。単調な一本調子の音楽といったらいいのでしょうか。ただ、モーツァルトのシンプルなメロディの魅力は言葉では言い表すことは不可能です。ピアノ協奏曲の魅力に近いといえるかもしれません。この単調さ故に、演奏が一様ではなく、テンポ、響きに注文を付けたくなるのかもしれません。失礼ながらヨーロッパ以外のオーケストラがこの曲を演奏するのをイメージできません。
長らく愛聴してきたのが1972年録音のケルテス指揮ウィーンフィルの演奏です。この世の中にこんな美しい音楽、ふくよかな弦の響きがあるんだと溜息が出ました。この演奏、音に馴染んできたので、その他の指揮者の演奏を聴いても、シャカシャカ急いでこの曲の魅力を台無しにしているように感じました。音も濁っていて小さく聞こえます。
今でもケルテス盤は素晴らしいと思います。ケルテスのモーツァルトは、レガートで演奏するので他の後期交響曲ではメリハリというか深みに欠ける印象はあります。それ故に瑞々しいモーツァルトになっていてこれが第29番ではぴたっとはまります。
そこに新たに登場したのが、ベームとウィーンフィルのライブ演奏です。
海賊盤を取り上げるのは何となく後ろめたい気もするのですが、単なる愛好家の個人的ブログですのでこの世に存在する最も好きなディスクをご紹介したいと思います。
1973年6月のウィーンでのライブです。ゆったりとしたテンポですが気迫のこもった充実した音楽です。絶妙なバランスで勢いもあり音楽の単調な魅力を損なっていません。テンポが遅い分、モーツァルト音楽の香りが優雅に花開いています。
それにしても、このウィーンフィルの響きです。とろけるような優しくて美しい音。ライブだけあってそこまで歌うんですかというくらい弦がゆったりと伸び伸びと歌います。弦だけでなく、ファゴットやホルンが伴奏する音楽での絶妙な絡みも格別です。
このディスクは、秋葉原の石丸電気で見つけたものです。GNPとクレジットがあるのでそういう名称の海賊盤業者でしょうか。このシリーズは石丸電気でしか見たことないものです。このディスクには、第29番の他、第34番、第35番、第36番(いずれも1974年のライブ)が収録されていますがこちらも素晴らしい演奏です。
なお、ベームとウィーンフィルの第29番は1977年3月の来日時のライブ演奏がTDKから発売されています。こちらは第1楽章ではテンポがさらに遅くなっていて弦の響きは相変わらず魅力的ですが、音が若干途切れがちです。一方で第4楽章ではまだまだ若さを感じさせる高速の演奏になっています(併録のドン・ファンもさすがと思わせる極上の演奏です)。79歳のべームも83歳のべームも素晴らしいと思いますが、1973年盤のほうが若々しい艶があって好きです(1968年録音のベルリンフィルとの正規盤はよくありません)。
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