クレンペラー/フィルハーモニア管「マーラー交響曲第7番“夜の歌”」


 最近聴いたクラシック音楽の新譜から何枚か。

 ポリーニの「バッハ 平均律クラヴィーア曲集第1巻」です。巨匠といってもいいポリーニ初めてのバッハ、話題作です。バイオリンのクレーメルが無伴奏を演奏した時のような深く切り込みつつもユニークな解釈の新しいバッハであればいいなと聴く前に考えていましたが・・・この期待は裏切られます。素っ気ないような淡白な音楽に聴こえました。ちょっと拍子抜けしましたが、改めて何度か聴いていくうちに純音楽的な奇を衒わない演奏であることが分かってきました。繰り返して聴くたびに演奏の水準の高さが実感できます。特に13番以降、CD2枚目がいいです。世評も装飾を排した玄人向きの演奏と高く評価しているようです。
 譜面が読めずに感覚で音楽を聴く私のような素人には若干地味かなあという印象はありますが音の響きの素晴らしさはさすがポリーニです。グールド、グルダ、リヒテルなどの名盤に並びうる演奏かどうかは私にはもう少し時間が必要です。

 内田光子が指揮も兼ねてクリーブランド管弦楽団と協演した「モーツアルト ピアノ協奏曲23番&24番」です。テイトとの全集以来20年以上を経ての再録盤です。
 自然な躍動感、しっとりとした情感があり素敵な演奏です。悪くない。ただ、それ以上に何かを感じるかというと私にはピンときません。内田光子にはピリスのような歌が聴こえないなあという以前から感じている印象がここでも残ります。

 そして新譜ではないのですが久しぶりの再発売となったのが、クレンペラー指揮、ニュー・フィルハーモニア管弦楽団の「マーラー交響曲第7番“夜の歌”」です。このディスクについてはマーラー7番の名演奏として、また、クレンペラーファンなら是非聴くべき名盤と読んでいて、随分以前から探していたところ、ようやく手にすることができました。

 評判どおりの非常にスローテンポの演奏です。一音一音、フレーズを丁寧に表現しつくします。ゆっくりと大きく呼吸するスケールの馬鹿でかい演奏です。ゆっくりめのインテンポで瑞々しさ、神々しさ、多彩なニュアンスを描き切るのは、フィガロや幻想など同様にクレンペラーでしか聴けない音楽です。
 これまでマーラーの第7番と第8番は一体どういう音楽なのかよく理解できなかったのですが、クレンペラーの演奏でようやく第7番が分かったような気がします。もちろんこの巨大な交響曲の複雑な曲想、何が描かれているのかは素人の私には分からないのですが、地球の自然、人間、地上の聖なるモノなどこの世の中に存在するものが壮大に描かれていることが伝わってきます。

 実際に演奏時間は他の演奏と比較するとかなり長いのですが、スローと感じるのは始めだけで、演奏に聴き入るうちに演奏のスピードは全く気にならなくなります。遅くとも生き生きとした音楽です。これが結果として第7番のテンポ、必然の速さなのでしょう。
 再発売に感謝したいと思います。名盤だと思います。


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「モンドヴィーノ」


 最近ワインモードということでワインに因んだ映画「サイドウエイ」と「モンドヴィーノ」を観ました。

 「サイドウエイ」は作家志望の英語教師とパッとしない俳優の中年2人組が俳優の結婚式前に1週間の小旅行に出かけるというロードムービーです。カリフォルニアのワイン畑を巡りながらゴルフ、飲み食いと羽を伸ばそうというもの。結婚を控えた俳優の本当の目当ては女、ワイン好きで真面目な英語教師とはギクシャクです。そしてワインに従事している魅力的な女性2人と知り合って・・・。
 ワイナリー巡りという展開が主人公達と一緒に旅行しているようで気軽に楽しく観賞できます。ワインが男女の恋愛を盛り上げますが、パッとしない中年の現実を思い出してお酒に溺れることも。英語教師自慢の保有ワインは1961年のシュバルブランで人生最良の日に開けるつもりが・・・失望することが続いてもうヤケクソ、ファーストフード店でハンバーガー片手にプラスティックのコーヒーカップに大事なワインを注いでがぶ飲み・・・泣けます。ほろ酔い気分の旅行の先には、ほろ苦い結末と希望の光が・・・。気の効いた台詞、ストーリー、親しみ易い味のある俳優陣・・・映画らしいエンターテイメントに溢れていて大いに楽しめます。近々、日本でもリメーク版が公開されるんだそうです。こちらも期待したいです。

 「モンドヴィーノ」はフランスで制作されたワイン業界の今を描いたドキュメンタリーです。業界に関わる多くのキーパーソンへのインタービュー、取材を通じてワイン業界の実情が明らかになってきます。

 伝統的なボルドー、ブルゴーニュを頂点とした世界のワインの階層が、カリフォルニアの巨大資本やロバートパーカーなどの有名批評家の登場で崩れて、ワインがインターナショナル化、均一化されていると言われています。

 ロバート・パーカーの影響は絶大で、彼好みの濃厚で新樽使用でバニラの香りを付けたワインばかりになっているという批判。それに対して、実際に客が好んで売れるんだからいいじゃないかという反論。
 ロバート・パーカー本人は数々の批判があるのを承知で、以前のワインメーカーご用達の評論家の意味のない評価に消費者視点を持ち込んで風穴を開けたという自負があり、これはその通りだと納得できます。
 何が真実なのか私にはよく分かりませんが、パーカー好みの濃厚でタンニンの軽いワインを自分が好きなのも確かです。一方でワイン界を席巻しつつあると描かれているカリフォルニアワインについて、まだ本当に美味しいと思った1本に出会っておらずで私の中ではアメリカはまだ新興国の一つです。いずれにしても、先日飲んだサッシカイアもそうでしたが、ブラインドで飲んでどこのワインなのか分からないあるいはフランスワインとしか思えないという均一化もどうかとは思います。

 このドキュメンタリー映画の魅力はこのようなワイン界の実情を分かりやすくまとめたという点もありますが、数々のブドウ畑やワイナリーが燦々と降り注ぐ太陽の中で明るく紹介されている映像の鮮やかさにもあります。フランスもアメリカもイタリアも自然の緑は本当に美しい。
 激しい論争を見聞きしながら、それでも美味しいワインが飲みたくなる。そんな不思議な映像、映画です。


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