「パヴェ、どこへ行ってしまったの、私を置いてどこへ行ってしまったの」
カルペネは悲観に暮れるのだった。
パヴェとは、パヴェ・ダフィノアのことである。パヴェとは石畳のことを意味するが、形が似ているだけだ。白カビチーズとして分類されているが、熟成の進んだものは、中がトロトロで、カスタードのようである。白カビ風味のカスタードケーキとでも云うような味わいだ。そのパヴェ・ダフィノアとカルペネ・ロゼ・ブリュットは相思相愛の仲だった。ふたりは別々のルートから、ここクアトロで落ち合ったのだった。
しかし運命は過酷である。パヴェ・ダフィノアはすぐにお客様の注文を受けていなくなってしまったのだ。
「パヴェ、また逢えるわね、カルペネはきっと待っています」
カルペネの視線は宙を泳ぐのだった。
「パヴェ、さっきからパルミさんが私を見つめているの」
「パヴェ、早く戻ってくれないと・・・」
パルミにも心が揺らぐカルペネだった。
パヴェ・ダフィノアは明日にでもクアトロに帰ってくる予定だが、カルペネはまだそのことを知らない。カルペネの運命やいかに。
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