これは、ジャン・フォートリエJean Fautrier の「人質」シリーズの一枚。
アンフォルメルの先駆者といわれている。
第一次世界大戦と第二次世界大戦に翻弄された人生を歩んだ。
「人質」シリーズは、その凄惨な戦争体験に基づいて制作され、彼の代表作ともなった。
彼の作品は、現実のものから内面的裏付けによって抽出されたイメージを厚塗りの画面へと定着したもので、抽象絵画ではない。
人の狂気によるさまざまな蛮行愚考を見て受けた衝撃を、そのイメージを生々しく画面にぶつけた。
今、世界で起こっている紛争、そして愚行は、この絵に描き出されているようだ。
宗教の名の下に、民族間の遺恨のために、利権を求めて人を虐げたり他国に介入する、そんな荒れ果てた世界を。
家が焼かれ、爆弾で人が死に、子供までもが小さい手に銃を持って戦うような、戦争状態にない日本においても、弱者はその存在を脅かされている。
戦争地域から見れば、一見平和なようだが、地下の見えないところが腐り崩壊しつつある。
じわじわと壊死して、ついには滅亡となるやもしれない。
よく目を凝らしてみてみれば、フォートリエの「人質」があちこちに見えてくるだろう。