大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・13(楽観的リフレイン・1)

2016-12-02 05:57:33 | ノベル
秘録エロイムエッサイム・13
(楽観的リフレイン・1)



 この角曲がったら……武蔵がいるような気がした。

 那覇の国際通りでのバトルが終わって、清明とハチと何か話したような気がしているが、真由はロクに覚えていなかった。ただ敵の名前が孫悟嬢で、負けて消滅したのではなく、まだHPに余裕を残しながらの戦略的撤退であることが「ああ、またやるのか……」という気持ちとともに残っているだけだった。
 そのあと、清明の山荘にテレポした。今度は、いきなり山荘の中ではなく、山荘に通じる山道だ。

 で、柴垣の角を曲がって、山荘の庭に入ると宮本武蔵がいるような気がしたのである。

 が、ちがった。回遊式日本庭園には似つかわしくない、アイドル姿の女の子が、まるで握手会のようにニコニコして立っていた。
「あ、ウズメさんじゃないですか」
 清明も驚いていたが、真由ほどに意外そうではない。
「どうも、今日は、アマテラス様のお使いでまいりました」
「うん、そういう格好も、ウズメさん、いけますね」
 ハチが、その横でワンワンと吠えた。
「ハチは、古事記通りのトップレスの姿がいいそうです」
 真顔で清明は、犬語を翻訳した。
「うそ、ハチも似合ってるっていってます。あたしだって犬語分かりますぅ」
「ハハ、話は面白い方がいいと思って」

 気づくと、庭園を回遊し、四阿(あずまや)に向かっていた。
「真由さん、ご苦労様でした。思いのほか大変な敵が出てきたので、アマテラス様が、急いで話を付けて来いとおっしゃって、わたしをおつかわしになりました。ご存じだとは思うんですけど、わたし天宇受売命(アメノウズメノミコト)っていいます」
「えと……雨の?」
「ああ、やっぱ、学校で記紀神話習ってないと分かんないわよね」
 ウズメは、軽くため息をついた。
「アマテラスさんが、弟のスサノオの乱暴に腹立てて、岩戸に隠れちゃうじゃない。で、世の中真っ暗闇になって、困った神さまが一計を案じ、岩戸の前でヤラセの宴会やるだろ。そのときMCやりながらエキサイトして、日本初のストリップやった女神さん」
「ああ、むかし宮崎駿のドキュメントで、そんなアニメが出てた!」
「芸能の神さまでね。タレントになる子は、みんなお参りにいく庶民的な神さま。でも、そのウズメさんが、なんでまた?」
 清明が、そう聞くようになったころには、庭を見晴るかす四阿についていた。

「国際通りに出ていた式神と孫悟嬢は、琉球独立運動のオルグなの。思った以上に数が多かったのでアマテラスさまも、ご心配でわたしをおつかわしになったの」
「あの、オルグって?」
「えと……工作員のこと」
「え、中国の?」
 
 鹿威しの音がコーンと響いた。

「中国の何千万人かの人たちの想いが凝り固まって出てきた変異だと思う」
「割合は低いけど、中国は人口の分母が多いから。思ったよりも強力になってきたみたい」

 庭では、ハチがスズメを追い掛け回している。ハチも犬なんだなと、真由は気楽に思った。
「スズメはね、トキとタンチョウと並んで中国の国鳥候補のベストスリーなの。得点稼ぎのスパイかもね」
「ここの結界は完全だよ」
「牛乳箱の下に鍵……昭和の感覚ね」
「この四阿にも結界が張ってあるよ」
「あの、ウズメさんは、あたしに御用が?」
「そう。お願いと覚悟を決めてもらうために、やってきました」
 ウズメは姿勢を正して、真由に向かい合った。

「これからは、日本を守るためにリフレインな生活を送ってもらいます」

 真由はリフレインの意味を思い出していた……たしか、繰り返しの意味だった。
「もう一つ意味があるわ。refrain from~で、何々を我慢するって意味もあるわ」

 そういうウズメは、とびきり可愛かったが、目もとびきり真剣だった。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・111『300Ⅱ』

2016-12-02 05:43:17 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評・111
『300Ⅱ』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ



 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです。


早朝 1回目上映だったせいもあるだろうが、正直眠たい。

 全く人間がいない。ほぼ全体CG画面なのは前作と一緒なのだけど、今作は、「ああ、CGや」という風に見えてしまう。
 前作は、フランク・ミューラーのグラフィック・ノベル(要するに漫画)を映画化するスタイルなので、よりCG合成を意識して良さそうなのだけど(実際そう思ったけど)、現実には今作の方がしらける位CGアニメに見えてしまう。
 今作には、ミューラーの原画がなく、構想(後に脚本になる)のみがあり、モデルが無かったので画面は完全に映画のオリジナル。 前作は原画の決定的シーンを忠実に切り取ってあったのだが、それが何らかの化学変化を受けてリアルに歴史(神話とも言える)を見せていた。この場合の化学変化とは、役者の成りきりと人物が丁寧に描かれていた事に拠るものです。

 前作テルモピュライの100万対300の戦いは多分に神話的要素が強いのですが、本作に描かれるテルモピュライに先立つ事10年前のマラトンの戦い(第1回ギリシャ対ペルシャの戦い、ギリシャ側の勝利に終わり、戦勝報告を兵士が走ってアテネに届けた。このマラトン~アテネ間の距離が42.195㎞で、現代のマラソンの起源に成っている)とテルモピュライと同時期にあったサラミスの海戦を描いています。ヘロドトスの「歴史」にも描かれ、人物の背景も解説されている。ギリシャの将軍テミストクレスも、元はギリシャ人でありながらペルシャ艦隊の一翼に属するアルテミシアも、勿論クセルクセス王も実在の人物である(マラトンの指揮官は別な将軍だったが、本作ではテミストクレスになっている) 」

 テミストクレスは貧しい家から這い上がるようにして市民政治家になった人で、スパルタのレオニダス王のような専制君主ではない。彼は、いかに動くかを市民議会の決定に委ねざるを得ない。ここにテミストクレスの苦悩とドラマが在るはずなのですが、映画は非戦・開戦の対立をちらっと見せるだけで踏み込まない。テミストクレスの周囲の人物にも説明がない。 だからギリシャ側の人間が誰一人浮かび上がってこない。
 逆にアルテミシアは、非常に勇猛な女性であったようだが、本作ではまるで魔女で、クセルクセスは彼女の操り人形のように描かれている。
 ドラマの深度が浅くなっているばかりか、クセルクセスの人物像までが浅はかになってしまっている。画面はスプラッタホラーかと思わせる程 血みどろではあるが、人物が見えにくい為、まるでゾンビ対ゾンビの殺し合いの雰囲気、感情移入する対象が存在しない。
 歴史とはいえ、紀元前480年のお話、半分神話の世界ではあるので、映画的脚色も許せるとは思うけど、もう少し人間を描くべきだった。 画面にも“??”と思わせるシーンがたびたび有って、後進の指示が出ているのに櫂が全く動いていなかったりするのは興醒め。
 海戦のシーンにしても、この繰船で、どうやって敵のド#☆◆○に突っ込めるのか解らない。どうせCGならもっとスマートに見せられる筈である。
 てな訳で、迫力の映像ではあるが真価を発揮出来ていないと見える。“ノア”にも共通の問題で、ドラマのどこに重点を置くのか……最重要視点は一つに絞り込んでおかないと、散漫な印象の作品になってしまう。
 これらの問題が脚本にあるのか編集にあるのかは不明ながら、現実にグラフィック・ノベルが無いのだから罪の有りどころとしては半々ですかね。
 フランク・ミューラーは現在のヒーローコミック映画全盛の立役者ですから、年がら年中製作現場に呼ばれるらしい。その為、本業のイラスト・ストーリーがお留守になるらしい、痛し痒しですね。本作の為には、イラスト原作があった方が良かったと思います

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