大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ読書感想『横道世之介』

2016-12-21 07:04:10 | 映画評
タキさんの押しつけ読書感想
『横道世之介』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ

 『横道世之介』(よこみち よのすけ)は、吉田修一による小説で、これを原作とした映画が2013年2月23日に全国公開予定です。悪友の滝川浩一君が、個人的に仲間内に流してくれた読書感想を、本人の了解のもとに転載したものです。



 吉田修一って人は、「悪人」といい、本作といい、読んだ後 妙な気分を引っ張らせる作品をかきますねぇ。 

「悪人」では、誰が一番悪人なんだと考えさせられた。常識上は直接の殺人者がトップに来る訳ですが……ちょっと待て 本当にそうなのかいって作りでした。日常に隠れている悪意だとか、生活上のちょっとした判断が自分や他人に影響していく……そんな事が多層に重なった所で事件が起こる、そこからの判断で、いくらでも転落して行くんだ……。
 と翻って本作、これと言って なぁ~~んも事件なんぞ起こらない。
 田舎から 東京の大学に出てきた18歳の横道世之介(本名)の1年間の生活を語って行く。大学での出会い、ちょっと大人の恋、プチ暴走ってか…冒険にもならないが、本人にしてみればちょっとショックな出来事やら。別に大学に行かずとも18~9に有りがちな、アラカタは経験不足と優柔不断による事件(???)の数々。
「世之介」だから、勝手に色っぽい話かな? 位の感覚で読み出したんですが…考えてみりゃ吉田修一がそんなもん書く訳ゃぁ無い。
人格ってやつは 当然生まれながらに持ってるもんじゃなく、色々経験するうちに形成されるもんですよね。誰しも 後から考えてみると、自分の生涯に決定的な影響を与える一瞬てか、1日 あるいは一年ってのがあるんだと思います。
 本作主人公「世之介」にとっては大学一年生の一年間がその時期だったようです。世之介のその後の人生は全く語られず、どんな死に方をしたかが書かれているだけです。しかし、世之介が命終えるまで、どのような人間であったかはちゃんと解るんです。それは、読者が10万人いれば10万通りの人生なのです。
 つまり、読者が世之介と考え方を共有するのではなく、殆ど「郷愁」としか呼びようのない感覚に包まれるからで……ただし、これは青春を過ぎて、暫くしている年代でなければ解らない感覚だとは思いますね。  
この人の書く物語は、単に「郷愁を覚える」だけにとどまらず、読者の人生がどこかに投影されて、それが引っかかりとなり、考えさせられたり、人によっては苛つかせたり、泣く人もいるんでしょうねぇ。もし、自分の死ぬ日が解るなら その時もう一度読んでみたい…そんな気にさせる一冊でした。

コメント
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