大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト〔エピソード・赤鼻のトナカイ・2〕

2016-12-10 06:40:44 | ライトノベルベスト
ライトノベルベスト
〔エピソード・鼻のトナカイ・2〕



 赤鼻のトナカイの家は留守だった。

「ああ、選挙まで一週間もないものな……」
 サンタは、携帯で呼び出すのも無粋に思い、近くの喫茶店で時間を潰した。
「この店、まだやっていたんだね」
 出てきた赤天狗のマスターに、つい言ってしまった。
「こんな店が、世界に一軒ぐらいあってもいいと思いましてね」
 マスターは嫌な顔一つしないで、コーヒーを入れてくれた。どこか悟るところがあるのだろう、昔ほど鼻は高くない。
「今でも、みんなで歌ってるのかい?」
「ハハ、これでも歌声喫茶ですからね。世の中、まだインター歌いたい奴もいるんですよ」
「え、昔でもインターまでやる歌声喫茶は少なかったよ」
「今は、コアなお客さんしか来ませんからね」
「嫌味じゃなく、重要無形文化財だな……」

 そこまで言うと、マスターもサンタも黙ってしまった。別にどちらかが気を悪くしたためではない、サンタの詠嘆に、この世代にのみ通じる思いが醸し出され、二人の老人は、それに浸っているのである。

 入り口のカウベルを元気に鳴らして女の子が入ってきた。名前を聞かなくても姿で分かった。

「おう、赤ずきんちゃんじゃないかい!? お祖母ちゃんは、まだ元気なのかい?」
「はい、オオカミサンにデイサービスの送り迎えなんかしてもらって、元気にやってます」
「あそこも孫の代かね?」
「ううん、オオカミサンは、今年61のオジサン」
「え、オオカミには子供がいなかったっけ?」
「うん、オレの代で店じまいだって……いまどきオオカミの時代でもないって、若いころにパイプカットしたって、こないだ初めて聞いてショックだった」
「赤ずきんちゃんは、お客でくるのかい?」
「ううん、アルバイト」
「ハハ、ウソですよ。バイト置けるほど繁盛はしてませんからね。ボランティアで手伝ってくれてるんです」
「あたし、渡り廊下走り隊の『希望山脈』のプロモ見て感動したんです。歌声喫茶なんて、あたしらの感性じゃ絶対思いつかないもの。今時喫茶店と言えば、漫画か、ネットか。普通の喫茶店でも、スマホかタブレットばっか見てて会話がないでしょ。それが赤天狗のお店じゃ、お話しもするし、みんなで歌まで歌っちゃうんだもん。これはイケてるわ!」
「渡り廊下走り隊」ってのはなんだね?」
「あら、ご存じないんですか、AKBのユニットですよ」
「ああ、そうなんだ」
 サンタは分からないまま、相槌をうった。
「赤ずきんちゃんは、伴奏にピアノもバラライカもやってくれるんですよ」

 サンタは、赤ずきんが歌声喫茶を単なるファッションとしてとらえていることに一抹の寂しさを感じないでもなかった。おかしなものである。若いころは歌声喫茶に行くやつなんかバカにしていたが、赤ずきんのような若い子が、なんの屈託もなく入っているのに、嫉妬に似たような感情をもった。

 夕方になると、三々五々、お客が集まり始めた。みんな白髪が目立つジイサン、バアサンだったが、中には赤ずきんと変わらない年頃の子もいた。コーヒーなどのドリンクはセルフサービスで180円である。これではバイトなど雇えるはずはない。
「喜びの唄」「白い恋人たち」「山のロザリア」「カチューシャ」「仕事の唄」と、往年の名曲をみんなで歌った。
 そして、赤ずきんが、明るく「インターナショナル」を唄っているときに、赤鼻のトナカイが入ってきた。

 夜風にあたって赤い鼻をいっそう赤くし、一杯のコーヒーを両の手で暖ともいえぬ温もりを愛おしんでいた。よく見ると、今まで選挙ビラを撒いていたのであろう。手はカサカサになり、半分ほどの指には絆創膏が巻かれていた。

――歌い終わるまで待ってやろう――

 サンタは、歌声の温もりの中に、身を隠すようにして看板になるのを待った。

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高校ライトノベル・タキさんの押しつけ映画評・119『トランスフォーマー/ロストエイジ』

2016-12-10 06:18:04 | 映画評
タキさんの押しつけ映画評・119
『トランスフォーマー/ロストエイジ』


この春(2016年4月)に逝ってしまった滝川浩一君を偲びつつ



 これは悪友の映画評論家・滝川浩一が個人的に身内に流している映画評ですが、もったいないので転載したものです。


アクションは、そらぁ見事なもんで、思いっきり食い足りなかったシリーズ第一作とは天地の開きです。

 殊に、戦闘でもつれ合うと、どちらがオートボットでどちらがディセプティコンか判然としない場面が有りましたが、前作くらいからデザインを判りやすく分けてあるので、そういう錯誤もありません。
 頭空っぽにして、いらん事は考えず、ただただお楽しみ下さいませ。お薦めいたします。

 で、ここからは私の私的小理屈であります。本作から、シャイア・ラブーフが外れて、マーク・ウォールバーグが人間の主役です。なんでシャイアが外れたのか、一切説明っちゅか情報はありませんが、作品のイメージを変えるってのは言い訳で、この所のシャイアの御乱行が祟ったんじゃないですかねぇ。
 このシリーズ、シャイアの恋人役が、暴言吐いて降ろされたり、なぁんかキャストにケチがつきますなぁ。間違いなく次回作が有りますから、今回キャストの皆様、くれぐれもご注意されたしであります。
リメイクではなく、リブートで、人間キャスト総入れ替え。しかし、前作から3年後設定なので、ドラマ構成が難しい所ながら、その点は上手く作ってあります。マーク演じるオヤジは果敢に戦闘にくわわりますが、シャイアのように単に無謀ではなく、動機も武器もちゃんと用意……し・か・し~~、ロボと人間の圧倒的なエネルギー差からして、あんなシーンに飛び込んだら瞬殺でミンチやなぁってのは今回も感じました。飛んできた小石一個が当たっただけでお陀仏でありますわ。まぁ、これを言い出すと映画にならんので禁句ですがね。
 それと、ストーリーそのものに唐突で乱暴な所が散見、これはマークと娘のエピソードに時間を割いたので編集上の都合でしょう。なんせ2時間45分ですからこれ以上長くは出来なかったでしょうからね。最後に、こらど~~でもよろしおまんねんけど。本作、中国にえらい気イ使ってます。ラストの戦場が香港で、「香港は政府(北京)が守る」っちゅう政府高官が登場、「ジェット機で攻撃する!」
とぶち上げる。どこの基地から上がったのか知りませんが、待てど暮らせど飛んできませんけどね。
 エレベーターに乗り合わせただけの兄ちゃんがえらい強かったり……。
 大作映画の場合、国内版以外にインターナショナルバージョンを用意しますが、本作にはもう一つ、中国バージョンがあります。 さぞかし、解放軍が活躍するんでしょうなぁ。人海戦術だとか言って、人民の海でディセプティコンを飲み込んだりして……アハハハ ハリウッドは政治に敏感で、政府が中国に秋波を送っているとなると、恥も外聞もなく摺りよります。ずっと敵対していた筈が、経済的に有効となると、政治的に何ら変化も無いのに百年前から友好国みたいな雰囲気です。

 これの一発目は、ディズニーが「ムーラン」なんてなアニメを作った辺りです。

 まあ、ええんですけどね、なんかしらけます。とは言え……です、中国の映画鑑賞人口は日本を抜いて、アメリカに次いで世界二位に成
ると言われています。本作は米中同時公開され、アメリカで1億7千万$売り上げに対して2億2千万$の売り上げ、こらぁゴマの一つもすらんとあきませんわなぁ。
 と、まぁ、ど~~でもええ小ネタでございました。おっと、忘れておりました。今日は久し振りに3Dを見ました。結論から言って、まぁまぁの出来で頭痛もしなかったのですが、映画の始めの方ではこれ見よがしに浮き上がる画面が気色悪いし、若干のブレも感じる、一番奥の背景が書き割りのように見えてしまう。ただ、見ている内に気にならなくなる……のではありますが、どうやらカラクリがありそうです。所々で3Dメガネを外して見るのですが、外すと当然ダブった映像が見える訳ですが、そのダブり具合が段々緩く成っているように見えます。映像の飛び出し加減で製作費に差が付くもんでも無いと思います。 ちゅう事は、やはり極端に飛び出す映像は不自然だという判断が製作側にもあって、見慣れると自然に見えるんだと観客に錯覚させる工夫(ワザワザ)がされてるんですね、なんのこっちゃら。
 てな訳で、やっぱり3Dはまだまだの技術です!と結論いたします。こんなもんで別料金盗るんやないわい〓〓〓 映画は2Dで充分であります。これ結論!

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